第2章 しろつめくさ×秀吉
(ちよside)
春も盛り。もう少しで夏に向かうかという過ごしやすい季節になってきた。綺麗な花々と新緑が入り混じり、鮮やかな色が安土を染める。町の人たちも活気づいてみんな楽しそう。
そんな中で、私の心には嬉しいとつらいという正反対の思いが交錯していた。そのどちらも、原因になっているのは大好きな秀吉さんだ。
「ちよ、次はどこへ行きたい?…って、聞いてるか?」
「あっ、うん!聞いてるよ!んーと…」
いけない、今は「嬉しい」ことの最中なんだから、そっちに集中しないと。なんてったって、秀吉さんとの久々のデートだから。
「行きたかったお店は全部連れていってもらったからなぁ。この反物なんて、鮮やかな若葉色でずっと欲しかったし…とても満足!」
「そうかそうか。喜んでもらえたならよかった。」
「ありがとうね。次は、秀吉さんの行きたいところに行こうよ。」
「俺のことよりも、今日は思う存分ちよを甘やかしてやりたいんだが……その顔は本当に満足って様子だな。」
秀吉さんが私の顔を覗き込んで、うんうんと頷きながら笑う。
あぁ…やっぱりこの優しい笑顔好きだなぁ。いつも向けてくれる表情だけど、デート中は特にたくさん見られる気がするから、嬉しい。
「そうだな…行きたいところはないんだが、少し気になっているところはある。」
「気になってるところ?」
「お前も知ってるところだ。俺の御殿から見下ろせる位置に、野原があるだろ。少し遠くに見えるところ。」
「あ…!この前眺めてた場所?」
その言葉から、何気ない日常のある場面が呼び起こされる。
秀吉さんの御殿から少し離れた位置には、小さく開けた土地が見える。冬の間は雪が積もって真っ白だったその場所に、春になったらどんな花が咲くのだろうと話していた。けれど数日前に久しぶりに眺めたところ、未だにその野原は白いままで、二人して首を捻ったっけ。
「あぁ。あそこが一体どうなってるのか、気にならないか?」
「確かに…まさかあそこだけ冬のままなわけじゃないだろうし…」
「ははっ、そうだったらすごいな。
よし、じゃあ向かってみるか!」