第1章 Last summer vacation
『あつ…』
扇風機の風を受けながら、棒付きアイスを頬張る。口の中はひんやりとして気持ちいいが、それはすぐになくなり、また茹だるような暑さが全身を包む。扇風機をつけていても、もともとの空気が暑いのだから、生ぬるい風しか出てこない。
7月。夏休みの宿題も程々に、は自宅の窓から外の風景を眺めていた。両親はいない。出掛けているとか、離れて暮らしいているとかではない。この世にはもういない。物心ついた頃から、両親の記憶はなく、遠い親戚の叔母さんと一緒にここに暮らしている。確かお父さんの妹の旦那の双子の姉の旦那の兄の……とにかく、わかっている事は両親とも海外の人だということ。私の髪や目の色はしっかり遺伝されている。日本に住んでいるから日本語も獲得し、家では叔母さんと英語で話している。
最後の一口だ。ほぼ溶けかけているアイスを口に含み、残った木の棒を見つめる。あたりの文字はない。少し離れて置いてあるゴミ箱目掛け、力をコントロールしながら投げる。ゴミ箱の少し手前で落ちそうになる木の棒。惜しい、と思いながら見ていると、糸で引っ張られているかのように、スーっとゴミ箱が前に動く。コンと音がしたことが、木の棒が中に入ったことを証明する。
『え…なんで?……叔母さん?』
理解できない状況に慌てる。見間違いとは考えられない。買い物に出かけているはずの叔母さんの仕業かと思い、声に出して問いかけるが、家の中にもう一人の気配はない。恐る恐るゴミ箱に近づく。ゴミ箱を手に取り、なにか仕掛けがないか触るが、磁石や糸の存在はない。
謎が解けないまま、ゴミ箱を置こうとすると、後ろから「ホー」と動物の鳴き声が聞こえた。驚いてゴミ箱を勢いおいよく手放す。案の定中身が散らばるが、それを拾う余裕はない。
窓のサッシに止まる一羽のフクロウは、間違いなく私の目を捉えている。そもそも、窓を開けた覚えがない。茶色く大きいフクロウは、動物園で見るならかわいいだけで済むが、ここには檻がない。明らかに野生。どうしたらいいかわからず少しずつ横に移動すると、バサッと羽を広げてフクロウが近づく。
『わあっ!!』
驚いてしりもちを着く。なんとも間抜けだが、あんなに可愛くても鉤爪はかなり鋭い。引っかかれたら一溜りもない。