第20章 上司
「ただいまー」
「おかえりなさいカホさん」
工藤邸ではカホが帰宅しリビングから沖矢が出迎える。
「あ、この匂いはシチューですね」
カホは鼻をスンスンと鳴らして匂いを嗅ぎこむ。
「その通りです。もうすぐ出来上がるので準備して待ってていて下さい」
「はーい」
カホは返事をして2階へと続く階段を上がった。
カホが部屋着に着替えてリビングの扉を開けると既に夕飯の準備は済んでいた。
「「いただきます」」
2人で手を合わせて目の前の食事に手をつける。
「昴さん料理上手になりましたね」
「カホさんのアドバイスのお陰ですかね」
「役に立てたかは分かりませんけど、私が最初に来た時より格段に美味しくなってますよ」
「あの時はまだ調味料の配合とか分からない点が多かったので」
「今じゃ目分量ですもんね」
カホはフフ、と笑って沖矢を見た。
沖矢はそんな彼女の笑顔を見ながら一人考えていた。
家から出ないで欲しい
この言葉をいつ彼女に伝えるべきか。
彼女の場所を特定した安室君は恐らく数日の内に何らかの行動を起こすだろう。
彼女に伝えるなら早いに越したことはない。
だがしかしカホは知っているのか?
彼、バーボンの存在を。
もし知らないとしたら彼女にはどう伝えたらいい?
正直に話せば分かってもらえるだろうか
安室君は危険な人物だから近づくな、と
彼の事を想っているカホに
カホの為だからと言えど仕事を休ませずっと自宅に居させるというのはこちらも苦しいものだ。
何せ彼女の自由を奪うのだから。
目の前の彼女の笑顔を奪ってしまうのは恐らく避けられない。
俺のことを嫌うかもしれない、
それでも、あの男に渡す訳にはいかない
明日、カホが仕事から帰ってきたら話そう
ちゃんと、分かってもらえるように…
「もー、昴さん聞いてますか?」
「すいません、なんでしたっけ?」
少しムスッとしたカホの顔を沖矢は見つめる。
直ぐに笑顔になって自分に話しかけてくるカホ。
昴さん、
私、昴さんに助けてもらえて良かった
彼女は笑ってそう言った。
どうか、その笑顔を
消さないように…