第17章 夜の夢ー命ー
「ははうえ」
よちよちと歩いて、娘がやって来る。
私の腕の中には、まだ目も開かない生まれたばかりの息子がいる。
「弟…ですよ……」
気だるげな声。お産の直後と言うのは、苦しい。
「おとーと?」
「守りなさい、そしてよくしてあげるのですよ…母上との約束です…ね?」
「はい」
意味がわからないようだが、娘はにこりと笑った。最近かまってやれていなかったから、私と話ができて嬉しいみたい。
「ほら、そこにお座りなさい。」
「はい!ちちうえ、きます!」
娘が嬉しそうに言う。ああ、私の娘だわ。すっかりこの変な力まで受け継いでしまった。
「阿国」
娘の言う通り、主人が部屋に入ってきた。
「男の子にございます。お産に博識な隠の方に取り上げていただきました。先程まで泣いていたのですが、今は眠っています。」
「そうか、男の子か…。」
主人はそのことに胸を踊らせた。側にいた娘のこともぎゅっと抱きしめ、生まれたばかりの我が子を覗き込んだ。
きっと、娘と等しく、優しくそして厳しく導かれるのだろう。
「唇が阿国に似ているね。綺麗な顔の子になるよ。」
「でも、目はあなたですわ。」
「わかるのかい?不思議だね。君は、お腹の子の性別まで当ててしまうんだから。僕にも抱かせておくれ。」
彼はくすりと笑って、赤ん坊を抱いた。
「……ありがとう、阿国。」
「……。」
「君にはとても感謝している。僕はそう長くないから、子供たちを頼んだよ。」
そう言う彼の額には原因不明の紫がかった痣があった。病の兆候が見え、死が迫っている証拠…。
私は唯一残された左目でそれを写した。
「お気を確かにお持ちくださいまし。鬼殺隊を…残されたわずかな子供たちを、どうかお導きなさいませ。元柱の剣士としてはそれが望みですわ。」
「…阿国。」
「私はもはや呼吸も使えませぬ。なれど、廃れた隊のために可能なことは何でも致しましょう。ほら、笑ってくださいまし。子供たちに不安が伝わってしまいます。」
私はにっこりと笑った。
鬼殺隊の当主である主人は、不安を押し返すように、やがて優しく笑った。