第14章 あの夜ー断片ー
『お前にとって俺は何なんだよ!!』
覚えているのは、実弥が怒鳴っていたこと。
どんどん白熱していって、私はポロポロ泣いてしまって。
『でも……でも…!』
実弥はバン!!と勢いよく机を叩いた。
ガチャン、とマグカップがゆれる。何も液体のはいっていないそれは、新品だった。この前洗い物してて割っちゃったから新しく買ったんだ。
叩いたテーブルの上に、何枚か紙が置いてあった。その紙は、喧嘩の原因とも言えるもので。
こらえきれなくなって、私は机に突っ伏して大泣きした。赤ちゃんみたいに、子供みたいに。
『………頭冷やしてくる』
実弥は捨て台詞をはき、財布とスマホだけを持ってそのままバタン、と乱暴に玄関のドアから出ていった。
気配が遠ざかるなか、泣きながらテーブルの上の紙と、コーヒーが入っていたマグカップを片付けた。
最後に、実弥がくれたものに手を伸ばした。
けれど、それを持つ資格が私にはない気がして、それは放置した。
頭からはなれない。何回も聞いた音楽みたいに、見つめすぎた絵のように。
それだけが、ずっと残っている。
後悔とともに、いつまでもいつまでも、残っている。