第77章 名前を探して
「ただ奉納しても意味がない。こう言うのは気持ちが大切だから。アイツを思う心が必要。そんな人間が舞いを披露しないと…。」
そして、舞台からじっと俺を見下ろした。
それを聞いて俺はとある人物が頭に浮かんだ。
「要するに、への気持ちが強くて、霞の呼吸の使い手が必要なんだな!?」
「でも、君たち霞じゃないもんねえ。風と花…。」
「心当たりがある!」
俺は叫んだ。木谷さんが目を見開く。
「…え、マジ?」
「ああ、霧雨さんの継ぐ子だ。」
「……。」
木谷さんは少し考え込んでいた。
「それだ。すぐ連れてこれる?」
「……確証はありませんが、家はわかります。」
「そう。でも、それだけじゃダメ。この神社の娘さんを何とかしないと、鎮魂しても意味ないんだよ。」
木谷さんは首を傾げた。
「阿国なら大丈夫です」
「ん?」
「俺はアイツに何があったか知りません。俺には…特別な力も何もないです。けど、今の阿国には兄貴がいます。だから、大丈夫だと思うンです。」
霞守が阿国を思う気持ち。阿国が兄を思う気持ち。
あれが嘘だというなら、この世の全ては嘘だ。真実なんてない。
それほどまで、あの二人はお互いを支え合っている。
阿国は兄のために、病み上がりの体で懸命に頑張っていた。俺に助けを求めてくれた。霞守は妹のために命を賭けた。
「不死川くんの言う通りです。私は彼よりあの子達のことには詳しくありません。ですが、あの二人は誰より絆や命の重みを知っている…。そう思うんです。」
「胡蝶…」
俺を擁護してくれるその姿が頼もしく見えた。
「………。わかった。そう、そうか。」
「……どうしますか。」
「じゃあ、君の心当たりがあるって子呼んできてくれる?僕は神社の人に話を通しておくよ。まあ、当主がいないからスムーズにはいかないだろうけど。でも絶対ここの人たちは黙らせるから…。」
木谷さんは大きくため息をはいた。そして、グッと拳を握りしめて何処かへ行ってしまった。
「……黙らせるって実力行使か」
「…わ、私達はその継ぐ子のところへ行きましょう、不死川くん。」
胡蝶に促され、俺たちはようやくその場から動き出すことができた。
…勢いでやってきた神社で、こんなことになるとは思わず、まだ混乱する頭で胡蝶と時透の家へ向かった。