第12章 夜の夢ー戦場ー
ほんの少しだけ思い出した。
私の故郷を思い出した。あの業火。そして、武士達。
何もしていないのに村を燃やし、人を殺し…。
『こんな時代だから仕方ないんだよ、阿国』
炎の中、母親から言われた。
私は諦めずに逃げた。
時代のせいなんかにしてやるもんか。時代ではない。悪いのは、どう考えたって……。
人間………。
「…ッ若君ッ!!!!!」
私は血を這って、若君に覆い被さった。
そして、見上げた。私達を斬った、人間を。
「阿国、お前はここで死ぬのだ。私が殺す。お前を見ていると虫酸が走って仕方がない。お前の存在は不快なのだ。」
「嘘ですッ!!!!!師範は嘘をおっしゃられています、鬼に惑わされているだけです!!鬼舞辻に従い、どうなると…!!」
私はそこで咳き込んだ。
まずい、顔から太ももからざっくり斬られたから。
若君。ああ、よかった。あまり怪我はないみたい。少し腹が斬れただけ。奥方様は、お館様の頚なしの遺体の横で倒れているけれど、生きておられる。
私がしっかりせねば。守らなければ。
二人とも、奴を前にしても、お館様の無惨な姿を見ても、凛として逃げなかった。その覚悟を私が請け負って、お守りせねばならないのに。
「黙れ!!貴様の不気味な力も、その笑顔も、声も、姿も、何もかもが私の邪魔なのだッ!!!!!」
凄まじい怒りと、
縁壱さんへの妬み嫉みの記憶と、
私への、憎しみと
「死ね」
正真正銘の、本音の、言葉
立ち上がって、その懐に潜り込む。
刃を向ける。
「霞の呼吸…ッ!!!!!」
私の攻撃は届かず、師範が後から斬り込む。
今までやってきた、稽古と等しく。
何回も繰り返したのに、かわすこともできず。どうすることもできず。
私は再び斬られた。
「お前は、私にとって縁壱と同じなのだ、阿国」
違います、師範
それは違います
私、わかるんです
だって人の心がわかるから。感じるから。
縁壱さんは…。
縁壱さんは、私は、
………………