第2章 霞
「まだ私を阻むのか、阿国!」
左足と左手がない。
片腕と片足で私はまだ立っていました。
一本足で踏み込み、片腕で攻撃を繰り出す。
「いい加減に眠れ!!お前は亡霊だ!!!」
阿国とは誰なのか。
わからないけれど、先程から脳内に流れる映像があった。
さっぱりわからないけれど、全く身に覚えがないけれど、私はここで倒れてはいけない気がしたのです。
『師範!!』
血にまみれた男を追いかける誰か。
走っても走っても追い付かず、やがて地面に倒れた。
その体もまた血にまみれており、薄れゆく意識のなか、朦朧としたまどろみへと誘われるなか、確かに激しい感情が伝わってくる。
心にある怒りを超越するほどの、悲しみ。
私は一心不乱に立ち向かった。
「私を殺したとて、あなたはまた次の世代に頚を斬られるでしょう」
刀を構え、呼吸を整える。
「お前はその運命にあります」
「………なぜ…なぜそうも貴様は阿国と同じなのだ!!!」
「阿国阿国と、先程から何をおっしゃっているのかさっぱりわかりませんが。」
「その怪我をして、死を前にしてなぜ笑っていられるなぜそんなことが言える」
黒死牟から焦りが感じられました。
「私ができなかったことは、きっとこれから後に現れる者が成し遂げてくれる」
「………」
「私はただ託すのみです。」
黒死牟、私はあなたと出会うのが遅かった。全盛期ならまだ渡り合えたかもしれない。
けれど、何をどう後悔したって、私の肉体は衰えていくばかり。所詮はたらればです。
「お前は、自分よりも弱い者たちがお前のなしえなかったことをするとでも思っているのか」
「弱い者などいません。この鬼殺隊に、弱い者など。」
私は信じているから。私がみんなに、そうしてもらったように。
「私達は強い。…鬼よ、あなたはどう立ち向かいますか?」
「…ただ殺すのみ。」
「ふふ、では。まず私から。」
まだ笑えているのが、立てているのが、声が出るのが不思議でした。
こんなにも痛いし、気分が悪いし、不利なのに。
私は、笑ってそこにいました。