第41章 隠し事
帰ってきた実弥が、テーブルの上のあんパンを見て首をかしげていた。
「どうしたァ、パン買ってくるなんて珍しいじゃねえか。」
「……ちょっと」
…炭治郎くんのことは…言わない方がいいかな。
「……竈門ベーカリー…」
あんパンの入った袋の文字を読み上げる。店名がプリントされていた。
「………生徒の家の店だな」
「えっ?」
「…玄弥の同級生の家だァ」
実弥が言う。
へえ、炭治郎くんって意外なところで接点があるんだな。
………。
待てよ。もし、仮に、炭治郎くんに私と実弥のことがバレたらまずくないか?ていうか、実弥に私と炭治郎くんのことがバレてもやばくないか?
うん?
待って頭を整理しよう。
前世のこととか今は忘れよう。
えーっと、私は、実弥の生徒のパン屋さんで…保護者から疑われて…。
はいアウト。現時点でアウトじゃね?どうしよ詰みなんだけど。
「へぇ~、そうなんだ。すごく良い店員さんだったよ。」
「そうか。」
実弥はご機嫌にあんパンを頬張っていた。
…そんなに喜ぶならまた買おうかな。
「そういや、そろそろ結婚の挨拶行かねえとな」
「え?」
美味しそうにあんパンを頬張る姿を堪能していたら、実弥が突然言った。
「え?って、挨拶もしねえでできないだろ」
「…そうか……」
……ということは、私の家にも行くのか。
「………緊張してきた…吐きそう…!!」
「は?」
「うっぷ」
「おいおいおい」
実弥が背中をさすってくれてやっと落ち着いた。
「い…いつ…行くの……?」
「互いの家の都合もあるし…俺とお前の都合もある。ひとまず家に連絡入れねえとなァ?」
「………。」
私はじっとスマホの画面を見つめた。
……なんて連絡入れたらいいんだろう。
「……そうだね。今日は遅いし、明日電話する。」
「じゃあ俺もそうするわ。」
あぁ、何だか本当に気持ち悪くなってきた。
私は嘔吐感を懸命にこらえ、その場をやり過ごした。