第34章 前世の記憶ー眠る霞ー
そよそよと風が吹く。
何人だ、何人死んだ?
もう自分の前から何人死んだ?
安城天晴、桜ハカナ、木谷優鈴…
まだまだたくさん。たくさん死んだ。
自分の屋敷の縁側に座って、ぼおっと風邪を感じる。
そよそよ、と風邪だけが私に優しい。
「……疲れた…」
誰にも言えない、弱音がもれた。下を向く。
「大丈夫ですか?」
その時、声が聞こえた気がした。
気のせいだろうと思った。
けれど、目の前には継子の無一郎くんがいた。水をくんでくるように頼んだのに、空の水桶を持って確かに立っていました。
………ビックリしました。声を聞いて戻ってきたのでしょうか。戻ってくるこの子に気づけないほど、私は…。
「師範、疲れたんですか?大丈夫ですか?」
果てしなく無の状態で言われました。心配なんてしていないようです。
……いえ、忘れてください。
そう言おうとしました。しかし、彼は水桶を置いて、屋敷の中に入って薄いシーツを持ってきて私のとなりに座りました。
「疲れたなら、休むと良いです。」
「え」
「師範はいつもこうしてくれます。」
確かに、彼が稽古で疲れたようなら休むように良い、そして体を冷やさぬように薄い布を被って寝るように常日頃から言っていますが。
「休んでください、師範。今日も任務ですよね。」
「………。」
私はごろん、と縁側に寝そべった。
ふふ、こんなのいつぶりだろう。
無一郎くんが私にシーツを被せてくれる。
「師範、僕寝るまでここにいます。」
「……。」
「僕が寝るまで、師範は側にいてくれるから。」
あらあら、全部お見通しなんですね。
何となく心配で無一郎くんが寝ているのを確認してからいつも寝るようにしているのですが、もうその心配もいらないのでしょうか。
「……ねえ、このこと誰にも言わないでくださいよ。」
「そんなこと言われても、どうせ僕覚えてないので。」
無一郎くんが興味もなさそうに言う。
私はそれもそうか、と安心して意識を手放しました。