第26章 夜の夢ー日の呼吸ー
「日の呼吸を覚えたい?」
縁壱さんが眉を潜めた。
「兄上の月の呼吸ではないのか?」
「……師範は教えてくださらないのです。」
私が拗ねたように言うと、縁壱さんは私の後ろに視線を投げた。
「そう…なのですか。」
「ああ。」
後ろにはここまで連れてきてくれた師範がいる。
縁壱さんのところに行く!と言えば手を引いて連れてきてくれた。
「私は使いたい呼吸を選べと言ったのだ。」
「…本当は月の呼吸が良いのですが……。」
「あれは私の呼吸だ。教えるつもりはない。」
先程から師範はこの一点張りだ。
もはや八方塞がり…。
「日の呼吸を教えてやってもいいが……身に付くかはわからんぞ、阿国。」
「えぇっ、なぜにございますか?」
「今まで、誰も会得することができなかった。私の教え方が悪いのかもしれないが…。」
縁壱さんが俯く。私はそれに詰め寄った。
「阿国もはやく呼吸を会得し、お二人のように柱になりたいのです!」
「……それはあと何年かかかるなぁ。」
「いいえ!阿国は今すぐなってみせます!!」
私は拳を握りしめて力強く宣言した。
「…阿国は……呼吸を学ぶところから始めたらどうだ。」
縁壱さんが言う。
「お前はまだ日の呼吸と月の呼吸しか目にしたことがないだろう。今度の柱稽古の時に見学でもしてみたらどうだ。気に入ったものを選ぶと良いだろう。」
「阿国が一番好きなのは月の呼吸なのです!!!月の!!呼吸!!!」
「………阿国。」
師範がトン、と私の肩を叩く。
「お前は体が小さく手足が細い。それに加えて筋肉がないから私の月の呼吸は難しい。」
「………。」
「他の呼吸ならまだ可能性はある。それか、自分の呼吸を確立させるかだ。」
私はじっと師範の顔を見つめた。
「ならば、私は師範のような強い呼吸を確立させます!」
「……そうか。」
「何百年も受け継がれるような呼吸にします!!」
私が言うと、二人は面食らったような顔になった。
「夢のある話だが、鬼との戦闘が何百年と続くのは望ましくないな。」
「あっ…!!」
「阿国は今日も元気だな。」
縁壱さんが微笑む。
まるで幼子を見るような眼差しに、私は意地になって反論した。
その間、師範の顔は真顔のまま立っていた。