第25章 ー余談ー
無一郎くんのことを思い出すのは今に始まったことではない。
会いたいと願った時もある。
けれど、会ったところで、過去は変わらない。
「はあぁぁぁ」
「今回は長えなあ」
仕事から帰ってきた実弥が苦笑する。
私が無一郎くんのことに関してウジウジするのは定期的にあることで、その度に実弥には迷惑をかけている。
「……いいよ。好きなだけそうしてろ。」
「………。」
「全く。時透に妬いちまうぜ。」
隣に座る実弥がポンポン、と頭を撫でてくれた。
「ねえ。」
私は顔をあげて実弥に聞いた。
「実弥も、受け止められない死はある?」
突然そう聞いたにも関わらず、実弥は答えた。
「ある。」
偽りのない返事に正直驚いた。
「この前の本みたいに手紙でも出せよ。」
「嫌だよ。そんなことしても受け入れられる自信ない。」
「何なんだよ。」
ごろん、と実弥の太ももに頭を置くようにして寝転ぶ。
実弥のゴツゴツとした太ももは枕に向いてない。
「じゃあどうしたいんだ。」
「………わかんない。」
実弥が私を見下ろす。
「実弥は…苦しくない?」
「苦しくない。」
「そう。強いね。」
「………。」
私は目を閉じた。
前言撤回。たまには硬い枕も良い。
「」
実弥はそっと私の頭に手を置いた。
「お前、真面目すぎるんだよ。苦しいならちょっとは目ェそらせ。」
「……忘れられない、から」
目を閉じたまま話した。
「何をしても、忘れられない。想ってしまう。だから苦しいの。」
私が言うと、実弥は掠れた声で言った。
「だから、時透に妬いちまうっつーの。」
拗ねたように言う。
私は思わず吹き出してしまって、結局その場では眠れなかった。