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きみを想う

第2章 誘拐


  お見合いから数ヶ月経ったある日、わたしは付き人と一緒に、もうすぐ誕生日の父へのプレゼントを買いに街に来ていた。

漆塗りのきれいな盃を買いトイレに行った付き人を待っていると、いきなり強い力で腕を引かれ路地裏に引き込まれる。
叫ぶ間もなく口に変な臭いの布を当てられ、急に眠気に襲われた。



手足が痛い……

重いまぶたを開けると、そこは知らない場所だった。
山小屋のようなところだろうか。
カビ臭い……。
動こうとしたが、椅子に手と足、胴を縛り付けられていてビクともしない。

誘拐……された?
ゾワリと全身に悪寒が走る。

小さく開いた窓から見える外はもうすっかり暗くなっていて、長い間気を失っていたことがわかる。
サーと細かい雨の音だけが部屋に響いている。

うつろな頭でどうすべきか考えていると、ギイ、とドアが開き3人の大きな男たちが入ってきた。
わたしが目覚めているのに気がつくとニヤニヤ笑いながら近づいてくる。

「お目覚めかい、お嬢ちゃん」

真ん中の男が顔を寄せて来る。
お酒臭い息が顔にかかり思わず顔を背けると、太い指に顎を掴まれてグイッとまた前を向かされる。

「大人しくしてりゃ痛いことはしないぜ」

下卑た笑い声を上げるその男の指に、唯一自由になる口で思い切り噛みついた。

「ぎゃっ!!」と叫んで男が後ろによろける。

「こんのアマっ!!」

逆上した男がわたしの頬を思い切り平手で叩く。
バシッと音がして、ガタンと椅子ごと地面に叩きつけられる。

「っ…!!」

口の中に血の味が広がる。

「おい、やめとけ」

そのとき他の男が口を開いた。

「大事な人質だ。
金が手に入るまでは大事にしろ」

「ああ、そうだったな」

ガッとわたしの縛られている椅子を蹴ってから、男は奥のテーブルの方へ行き酒を煽る。

「約束の時間まであと1時間だな」

「ああ、もう少ししたら出るぞ」

「しかし本当に来るか……」

「愛娘が人質に取られてんだ。
来ねえ訳がねぇよ」

男たちが話しているのを聞きながら、目をぎゅっと瞑る。

また父に心配をかけてしまった……。
見合いもダメにして心配ばかりかけているからバチが当たったんだ………。

ポロリと一粒の涙が木の床に落ち、染み込んでいく。
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