第1章 お見合い
「久しぶりにこんなに笑いました。
そうか、あなたはまだ若い。
結婚なんてまだまだしたくない、ということですか?」
見上げながら言うと、「いえ」と意志の強そうな目で前を見据えたまま答える。
「姉も10代の頃にとおに結婚しています。
わたしもそうだろうと、疑問にも思っていませんでした。
でも、好きな人ができてしまったのです。
だから……」
「その人と結ばれたいから?」
フルフルと首を振り、すずらんは続ける。
「いいえ、その方は別の方と結婚してしまったのです。
でもわたしは、その方の忘れ方がわからない……」
最後の方は涙ぐんでいたが、涙はこぼれなかった。
「すみません。
お見合い相手の方にこんな話……」
すずらんがストンと腰を下ろしてまた俯く。
「いえ、あなたはあなたのお父上に似て正直な方だ。
話してくれてありがとうございます」
すずらんがオレの横顔を見上げる。
「縁談は後日、適当な理由をつけてこちらからお断りします。
早く新しい恋ができるといいですね」
さっそろそろ戻りましょう。と立ち上がり店へと歩こうとすると、
立ち上がったすずらんが大きな声で言う。
「あっあの、こんな中途半端な気持ちでお見合いに来てしまい、すみませんでした」
素直な子だな。
親子共々、憎めない人たちだね。どうも。
「いえ、わたしも上から言われて来ただけなので気にしないでください」
笑顔で返し、name1#を促し店の中へと石畳の道を歩いた。