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きみを想う

第4章 花火


「すずらん〜!!」

お父様の怒鳴り声が屋敷中にこだまする。
その理由は、わたしがお花のお稽古をサボっているから。
 2階の自分の部屋の窓から屋根へと上がり、寝っ転がって広い空を見上げる。

はーあ、今日もいい天気だなぁ。

フワフワと美味しそうな雲が、ゆったりと空を流れていく。
昔はソウマも一緒に、台所でくすねてきたお菓子を食べながら、ここで空を眺めていた。

ソウマはわたしの3つ上の幼なじみで、わたしの初恋の人。
うちで働く使用人の子で、歳が近かったせいもありすぐに仲良くなった。
優しくて運動神経がよくて、賢くて。
そばにいるのが当たり前で、いつの間にか好きになっていた。

 でも、18のとき思い余って告白すると、身分の違うお前とは付き合えない。と振られてしまった。
そしてソウマは他の女の子と去年あっさり結婚した。
辛くて、おめでとうは言えなかった。
今は、屋敷で警備の仕事をしているソウマ。
最近やっと少し話せるようになってきた。
それに、ソウマの顔を見ても胸が苦しくならなくなった。

きっと、あの人のおかげだよね…。

灰色の優しい目を思い出す。


 そのときピンポーンと屋敷のチャイムがなった。

お客様かな?

屋根をつたい玄関の方に見に行くと、門の前には火影様が立っていた。
さっき思い浮かべていた人がすぐ近くにいてドキリとする。
 使用人が出てきて、すぐにお父様も出てくる。
何か楽しそうに喋っているけど、ここからでは聞き取れない。
 そのとき、パッと火影様がこっちを向き、バチっと視線が合う。
するとお父様も振り向き、すごい形相で睨まれる。

ヤバイ!!

逃げようとクルリと向きを変えて走ろうとした時、ガシっと逞しい腕に身体が捕らえられる。

「本当に高いところが好きなお嬢さんですね」

「はは、こんにちは。火影様」

笑ってごまかしてみるが、うまく行くわけもなくお父様の所に強制的に連れて行かれる。
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