第7章 嘘
「なんさ、それ…」
(こんな時まで、他人のことばっかりさ…)
今、一番近くにいるのは俺なのに。
俺のことなんか眼中にないってか。
博愛主義みたいなこと言いやがって
俺は、一言…たった、一言
(好きって、言われたいだけなのに…)
その一言がもらえなくて、胸が苦しい。
「ディックは?なんて書くの?」
「俺はーーーーー」
(“好き”って、言われますように?)
(ブックマンに、なれますように?)
「………ひみつ。何も書かない。」
「えー!せっかくなのに!?」
「願い事なんてものは、自分で叶えるもんさ。」
ふっ、とディックは格好つけに笑って見せる。
そしてすみれの願い事の隣に、何も書かかったノートの切れ端を窓枠の上に貼付けた。
2枚の紙が仲良くゆらゆらと揺れている。
ディックは2枚の紙を見て、口元だけ大きく孤を書くよう笑顔を作った。
(何も、書かなかったんじゃなくて…
ーーーーー何も、書けなかったんさ。)
もし、本当のことを願ったら
叶わないことを、認めてしまうように感じて。
怖く、なってしまって
何も書けなかったんだ。
誰にも言えない。
本当の願いはーーーーー
そうやって、自分にすら嘘をついた。