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夜行列車に跨って

第3章 2shot


「お待たせ致しました。」


隣の二人組へ、マスターがグラスを置いた。
そしてなぜか、私の前にもグラスが置かれる。

え?とキョトン顔でマスターを見上げると、口元をほころばせた彼は少し離れた席の男性を視線で示した。


「あちらの男性から、そまみさんに」


軽く会釈をすると、その男性は右手をひらりと上げて退店していく。


「カシスソーダだね。」


そう話したマスターは、店内の暗い照明に隠れる様に、ソッと笑った。


「へぇ~、俺、初めて見ました…。」


スッと会話に溶け込んできたのは、隣の席の男性。


「あちらの方からです、って本当に起こり得ることなんですね」


「実は、私も初めて口にしたんです。あちらの方からですっていう言葉」


「マスターも話したことなかったんですね」


愛嬌よく笑った隣の彼は、思い出した様に自己紹介を始めた。


「突然会話に入ってすみませんでした。石川界人と言います。」


人がよさそうな微笑を口角に浮かべた彼は、グラスの持ち手に手を伸ばした。


「そまみさん、こちらの方はよくうちの店に来店してくれていてね、アニメとか詳しいんだよ?」


補足するように、マスターが会話を繋げる。
最近アニメを好きになった私は、すかさず自己紹介をした。


「そまみさんって言うんですね。最近アニメを好きになったのか~…アニメの前はどんな事が好きだったんですか?」


私はありきたりな回答をした。


「へ~ぇ、映画鑑賞ですか!」


「そういえばそまみさん、少し前までレイトショー観に行くのが楽しいって話してたよね」


ゆるゆるとマスターが笑った。


「レイトショー、俺も少し前に観に行ったんですよ。隣のこいつと。な、壮馬?」


石川さんに隠れる様に佇んでいたその人と、パチッと視線が交わった。


「あ、あぁー!そうだね、うん。観に行った。秋くらいだっけ?」


「そうだっけ、夏じゃなかった?」


酔いから思い出せないのか、隣の2人組はスケジュールアプリを起動させていた。


「あー、夏だわ」


「ほらー」


軽い冗談を飛ばし合うように、2人は笑いあっていた。
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