第9章 8shot
ピピピピ…と、無機質な音に起こされる。
もつれあったベッドの上。
私はムクりと上体を起こした。
隣には、可愛らしい顔でスゥスゥと吐息を立てる壮馬くんが居る。
その顔に似合わず昨夜何度もピストンした彼は、瞼を閉じる一瞬まで、わがまま王子様だった。
思い出した様に、自身の唇を人差し指で触れる。
全身を愛撫するように愛してくれた彼に、私は最後の口付けをした。
昨日と同じ服を着て、軽くリビングを掃除する。
鞄から、小顔に見えるマスクを取り出した。
メイク崩れをソレで誤魔化した私は、置き手紙を一通残してその部屋を後にした。
彼の事は忘れよう。
何の感情も生まれない。
そんな感傷に浸りながら、エレベーターの下ボタンをソッと押した。
am.6:42
「…んっ、そまみさん?」
シーツをまさぐるも、そこには温もりが残っているだけだった。
寝ぼけ眼で冷蔵庫へ向かう。
一杯の水をゴクリと飲んだ時、缶が置いてあったはずのテーブルに一枚の紙を見つけた。
―昨夜はありがとうございました。お仕事、応援しております。―
「っ…!」
急いで玄関に向かうも、昨晩のヒールはそこにない。
裸足のままマンションの廊下を覗いたが、もちろんそこに目当ての人が居るわけでもなかった。