第9章 独占マーメイド!【Azul】
「成程。恋を、ですか。」
カロロン、と氷とストローの当たる音がする。
青光りするグラスに注がれているのは唯の水であるのに、ここモストロ・ラウンジで尚且つアズール・アーシェングロットを前にするとそれは魔法の水のようにも思えた。
「しーっ!アズール先輩、聞こえてしまいます」
「おや。いけませんか」
逆に何故いいと思ったの?
まあ貴方にとってはどうでもいいでしょうけど。
監督生は不満げに口をモゴモゴする。
「では僕に、貴女の恋のキューピッドの役を担えと?そういうことですね」
「キューピッドというか…相談に乗って欲しいんです。ここは男の子しかいないから、頼れる人が居なくて」
「僕も男ですよ?」
「アズール先輩ならそういう…駆け引きとか?上手そうだなって。それにほら。これがあります」
監督生がカウンターにスッと滑らせるのはモストロ・ラウンジのポイントカード。
きっちり50ポイント分スタンプが押されたもの。
それを見てアズールはあっはっは、と笑う。
「勿論断る理由などありませんよ。…分かりました。では、話を纏めましょう。」
アズールは大層胡散臭い顔で微笑んだ。
「来週、ここナイトレイブンカレッジで行われるマジフト部の練習試合。その数ある招待校の中でも長年ライバル関係にあるロイヤルソードアカデミー。中でもマジフト部員がお一人、貴女の恋した"王子様"のハートを射止めるべく僕の力を借りたいと。」
「…平たく言えば、そういうことです」
監督生は腹の底で、何だか悔しいなと思っていた。
対照的にアズールは愉快だ、と言わんばかりの表情で眼鏡をくい、と押し上げる。
アズールに弱みを握られるのは痛い。
そんな事は魔法も使えず世間知らずな彼女にも分かっている。
しかし、こればかりはアズール以外には頼る相手がいなかった。
だから監督生はポイントカードを盾に、『恋を叶える手伝い』を依頼しに来たのだった。
スラスラと契約書に自分の名前を書く。
「契約、完了です。」