【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第3章 3分の1でも選ぶとは限らない
「治くんはどうしたの?」
「部室に忘れもん」
「あるあるだね」
弟もよく学校に給食袋とか取りに行く、と親し気に会話を交わしながら治は部室に入って行く。ていうか、治らっていつからあんな仲良くなったん? やっぱよさこいの時なんかあったんっちゃうか?
「じゃあ、私外掃除だから行くね」
「おん、気つけや」
肩を叩かれて視線を交わすと微笑みながら手を振る水田さん。体育館から少し駆け足気味な足音が去って行く。それからしばらくして、治が部室から手ぶらで出てきた。そのまま帰るのを見て「探しモンなかったん?」と呼びかける。俺の質問に答える様子もなく、出入口で上履きの紐を結び直し終わった頃に治が俺の方を振り返った。
「水田さんが体育館に、タオル持って行くのが見えたから」
明らかに治の顔の眉間にしわが寄る。水田さんがいなくなってから、明らかに俺に向けた険悪な視線やった。俺の反応をわざとらしく見届けてから、治は俺の視界から消えて行った。
(あいつ、絶対気付いてるわ)
さっき気分ええって言うたばっかやのに。―――ほんま、気分悪い。ネチネチしやがってホンマに腹が立つ。言いたいことがあるんなら堂々と言えばええやん。
春高まであと数ヶ月、棒に振るようなそんなガキみたいなことはせえへんけど。............なにがこんなに嫌って、こんなあからさまな挑発に腹立ってる自分が気持ち悪いねん。
水田さんから返してもらったフェイスタオルを頭に羽織らせて集めたボールのカゴをゴロゴロと押しながら部室に戻した。当たり前やけど全然俺んちの匂いちゃうな。アホらしい。大事な時期に浮かれとる自分が―――。