【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
「水田さん……その顔どなんしたん?」
聞かれることはそれしかありえない。予測していながらも問いかけられた瞬間思わず変な声が出そうになり息を止めた。
女の勘はどうしてこんなに鋭いのか、本当に嫌になってしまう。
「きつ…あー、これね。うーんと………、人にぶつかっちゃってさ」
「へぇ、結構勢いよくぶつかったんやね」
「痛そう…大丈夫? 早く治るとええな」
小さく息を吐きながら私は今出来る自分なりの平常心でそう答えた。
私の顔を覗き込みながら数人の女子たちが心配してくれる。心配してくれるのはとっても嬉しいけど今の私にとってはありがた迷惑である。それに、〝治くん達の喧嘩を止めたら侑くんの拳を食らった〟なんて口が裂けても言えない。言えるわけがない。言うはずがない。
「あはは、ありがとう。大丈夫だよ、そんなに痛くないし」
「そうなんや、お大事にな」
「うん、ありが…」
「うわ! 治顔やば‼ 片割れと喧嘩したん? 負けたん?」
クラスの男子の声に私は凍り付いた。そうだった、治くんもボロボロだったんだった。
「負けてへんわ‼ 大体ツムが急に言い出したんやし…」
「それ前と同じ言い訳やん‼」
治くんと男子達がいつも通り馬鹿騒ぎしてはしゃいでいる。
一瞬、チラッと治くんの方を見ると偶然目があってしまい偶然過ぎて驚いてしまいビクッと分かりやすく体が震えたが、切り替えてすぐに視線を逸らした。いい加減学習しろよ私。マジで殺すぞ。
治くんの方を見てしまったことを盛大に後悔し、大きなため息をし頭を抱え込むと心の中でもう一回自分の首を絞めた。今私の中の私がひとり死んだ。
「今日はなんか皆怪我してくるな~」
「う、うん、そうだね…」
そうですとも。だってこれは偶然ではなく必然なのだから。
何事もなかったかのように静かに時分の席に座ると私は家から持ってきた紙パックの牛乳を取り出し付属のストローをパックに差した。
久々に胃がむかむかする。今日パンじゃなくて牛乳持ってきて正解だったかもしれない。なんで学校ごときでこんな憂鬱な気持ちにならないといけないのか。
もう、学校に来てるだけでも十分えらい。私の斜め前で雑談を続けるクラスの女子を虚ろに見ながら私はストローを口に含んだ。