第36章 暗雲
主任はまた一緒に働きたいと嬉しい言葉をくれたが気持ちは既に固まっていた。
社内全体に出回ったメールは課長が目にも止まり、牛垣主任はずっと隣りにいてくれた。
早めの退社を命じられ、自宅に帰宅。
「なにから始めよ……」
ベッドに寝転ぶとドッと疲れ、ヘアセットした髪を無造作に撫で上げる。
「やりたいこと仕事にできたら良いな……」
そう考えたらやはり語学を活かした仕事だろう。
職場環境としては二の舞は御免だ。
また面倒ごとをつくる可能性もあり、交流は最低限な場所が望ましい。
自分にあったやりたいことを日をかけて進めて行き、在宅翻訳という形が目の前に見えてくる。
本社にいた頃にお世話になった人に連絡を取り、詳しい事情は話さなかったが一度食事の席で話さないかと出だしは好調だ。
「──久々に会えて話せて良かった。私は職業柄聞く専門だから今日という日は本当に素晴らしかったよ」
「貴重なお話しまたぜひお聞かせください。先生のお話しはとても勉強になりますから」
「ありがとう。近いうちにまた連絡するよ。周りは酒好きで参ってしまう。なんでも飲めるって訳じゃないのに困ったものだよ。君もそう思うだろう?」
帰る流れになったが時間が巻き戻ったように次から次へと話が尽きない取引相手。
失礼がないように長話に付き合い、ようやく解放された駅までやってきて長い息を零した。
「勉強にはなるんだけど長いところが難所だな…」
「あっ!もしかして湊さん…?」
「?」
背後から呼び声がすると商売道具を持った赤司くん。
その脇にはモデルさんのようなスラッとした体形と容姿も整った綺麗な人が腕を抱いて立っていた。