第8章 誰も知らない
一週間後、壁外調査がやってきた。
リヴァイはベルトを体に巻きつけ、立体起動装置をつけると出口とは逆の廊下を進む。慣れたように複雑な角を曲がり、まっすぐ1つの扉を開ける。
「…リア、体はどうだ。」
部屋にはベッドの上で縮こまり、布団を頭から被って蹲るリア。
「…誰?」
この1週間で、リアからはほぼ全ての記憶が消えた。
そしてもう思い出すこともないだろう。
表情は消え、いつも何かに怯えるような顔をするようになった彼女を見ていると、やはりエルヴィンの考えは間違っていなかったのではないかとも思う。
この会話を何回したことだろうか。リアが思い出すことは無いとわかっていながらも辛いものがある。
リヴァイはベッドの端に腰をかけると、リアをそっと抱きしめた。
「…意味がわからなくてもいい。黙って聞いてくれ。」
リアはリヴァイの腰に腕を回すと、キュッと力を入れる。
「俺は今から壁外調査に出る。…帰って来ないことも無いわけではない。」
「…それでも俺は必ずここに帰ってくると約束しよう。そしたらお前とまた、あの丘に行きたい。」
「…丘?」
「あぁ、約束だ。お前のあのピンクの紐も今度こそ取りに行こう。」
「紐…。」
「リア、俺はお前が「兵長!」」
扉の向こうから部下の声がする。
時間か…。
「……何?」
「…戻ったら話す。待っとけ。」
首をかしげるリアの頭を軽く撫でると、リヴァイは部屋を出て行った。
今の会話もまたすぐに忘れてしまうだろうがそれでもいい。
俺はもう逃げねえ。
また何度でも帰ってから言えばいい。
俺は必ずここに戻る。
リア、お前が好きだ。
俺がてめえを幸せにしてやる。
だから待っとけ。