第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
光は出産後も、細々とだがくノ一の仕事を続けていた。唯一、事情を知る風魔党の党首が負担にならない程度の任務を回してくれたおかげで、なんとか生活を送っていた。
光に回される仕事のほとんどは間諜だったため、依頼主や標的と会う場所は色茶屋や密邸に限られる。色茶屋に出入りするところをたまたま見かけた村人に誤解されて以後、光は『売女』の烙印を押されることとなった。本当の仕事を明かすことのできなかった光は、亡くなっても村人や子どもたちに誤解されたままだったのだ。本当の光は、たった一人の男を一途に愛し続ける穢れなき女性だったことは、誰も知らなかった。
光が亡くなったことを氏由が知ったのは、光の死後、数ヶ月が経過した頃だった。急に連絡のつかなくなった光を案じた風魔党の党首が光の元を訪ねたところ、幼子たちだけが取り残されていた。それを見た党首が慌てて当時の北条家当主だった氏政に報告し、そこでやっと氏由は全てを知ったのだった。
「光が子を産んだことに全く気付かなかった私は、とんでもない阿保だ。大事な女に一人で子を産み、育てさせた。光はくノ一として忙しくしていると信じて疑わなかった私は大馬鹿者だよ。自分のことに精一杯で光を気遣ってやらなかった。その結果、病床に寄り添うことは愚か死に目にも会うことさえ叶わず…。私が光にした仕打ちを思えば当然の報いだが、真実を知った時には全てが遅かった。気が狂うほどの苦しみだったよ。たった一人の愛する女さえ幸せにできなかった己を心の底から憎んだ。」
そう話す氏由の顔は苦悩に満ち、とても悲しそうだった。
「光は全ての子に私の幼名の『藤三』から『藤』を取って名付けていた。それを聞いた時は、光の愛情の深さを思い知って涙が止まらなかった。その時に、今度は私が光の分まで子どもたちを愛して育てて行こうと決意した。元々、光以外の妻を娶るつもりはなかったし、後継者の問題もない。私の決意を聞いても、さすがにもう誰も反対しなかった。」
秀吉も舞も心を痛めながら、氏由の話を聞く。
「まず、家に残っていた藤乃たちを連れて来た。会ったこともない人間と暮らすのは不安だったろうに、黙って付いて来てくれた。初めて『父』と呼ばれた感動は死んでも忘れないだろう。方々に手を尽くしたおかげで藤之助たちともなんとか会えたが、藤吉郎だけは見つからなくてね…。時間が掛かって申し訳なかった。」