第18章 時を越えて〜分岐〜信長ver.中編 ※R18、R20あり
それからの日々、舞とお市は多くの時間をともに過ごしていた。舞が信長に陣羽織を縫っていると知ったお市は『自分も氏直様に作りたい』と、舞に教わりながら羽織りを作り始めた。その様子に
「お市様は、氏直様のことがお好きなんですね。」
舞が言うと
「…はい。」
と顔を赤く染めて答えるお市。その姿は、可憐な乙女そのもの。舞は微笑ましく見ていた。
「それなのに…」
急に暗い表情を浮かべたお市は
「私になかなかお子ができないので、氏直様に要らぬご心労をかけてしまって…。」
いつもの明るいお市からは想像もつかない沈んだ声。きっと自分が想像もつかないような気苦労を抱えているのだろうと察した舞は
「お子は一人では成せません。お市様だけのせいではないのですから、自分を責めないでください。
……私の知り合いもなかなか子ができず医者にかかったりしていたけど、それでもできなくて、夫婦になって10年目でとうとう諦めたんです。諦めて夫婦二人の暮らしを楽しもうと、気持ちを切り替えて過ごしていたら……そうしたら、子ができたんですよ。
もしかしたら、お市様も『子を成さなければ』と知らず知らずのうちにご自分を追い詰めているのかも。『子は授かりもの』だと気を楽にしたら、お子が来てくれるかもしれませんよ?」
「……」
「他人事だと気楽に言ってる訳ではないんです。その私の知り合いというのは、実は私の両親のことで、私が生まれるまでの経緯を何度も聞かされたものですから…。母は言っていました。『子を成さないと』と必死になっていて、それが目的になってしまっていたって。子は夫婦が愛し合ってできるもの。互いを愛することだけを考えてするのと全然違ってたって。
焦らなくても、お市様にもいずれ子が来てくれます。だから、まずは氏直様と愛し合うことだけを考えてみてはどうですか?
って、偉そうに言ってごめんなさい。」
舞の話を聞いたお市は
「…ううっ…まいさま…うううっ…」
涙し始めた。舞はそんなお市を腕に抱き、
「我慢しないで吐き出してください。たくさん泣いて吐き出したらスッキリしますから。」
そう言って背中を撫でてやる。
「ううっ…わあああ…」
舞の優しさに童のように泣くお市の小さな背中を、舞はいつまでも撫でていた。
そんな二人の様子を廊下で聞いていた信興。
「兄上は本当に良い女を選んだな。」
そう言って微笑んだ。