第16章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.後編 ※R18あり
幸村の勧めで住まいを上田城内へと移した義元は、趣味として始めた陶芸で才能を開花させ、信玄も同じように趣味だった家具作りで才を発揮していた。
謙信は家督を直江兼続に譲った後、佐助や軒猿とともに朝鮮へ渡った。戦のない日々が退屈でしょうがなかった謙信は、朝鮮で強者を見つけては戦いを挑んだ。朝鮮の人々は、勝っても領地や財に興味を示さない謙信を『戦い好きの無欲な人物』として次第に迎え入れていく。内乱が起これば助太刀までする謙信は『日ノ本から来た英雄』として朝鮮でもその名を轟かせて行った。
信長は、三太郎とともに南蛮へと旅立った。何に迫られるわけでもなく、自由で穏やかな時を過ごす。言葉は通じずとも、なぜかどこへ行っても惹きつけてやまないその人間力で、人々を魅了していった。
「三太郎、この世はこんなに明るく愉快なものだったのだな。」
甲板の上で沈み行く夕陽を眺めながら信長が言う。
「そうですな。あの混乱の中では、感じることのできなかったことが世にはたくさんあって、誠に面白い。」
「ああ。」
そう言って夕陽を眺める信長の横顔を見ながら三太郎は思う。
ああ、なんと穏やかな顔をされているのか。
このお方はやっと、重く暗い荷物を下ろすことができたのだ。
と。
そしてそれは自分も同じ。
闇で生きてきた自分に光が差したのだ。
この世のなんと素晴らしいことか。
あの日、信長様を救ったのがあの方で良かったと心から思う。温かい陽だまりのような笑顔を思い出し、
「信長様」
「なんだ」
「日ノ本に戻ったら、舞様と三人で茶を飲みましょうぞ。きっと、南蛮の菓子に大喜びされるはず。」
「…くっ。彼奴は子を産み、母となろうとも、いつまでも変わらぬな。」
「はい。変わらぬものも変わって行くものも…その全てが未来へと続いている。あのお方を見ているとそう思います。」
「そうだな」
ーーー同じ頃、上田城。
「お前は本当に分かってねー。」
「また!幸村はすぐにそう言う!」
「本当のことだろ?」
「私の何が分かってないって言うのよ!」
「…俺がどれだけお前を愛してるかってこと。」
「…幸村…私も愛してるよ。」
ーーチュッ
二人の口喧嘩は相変わらず。でも、素直に気持ちを言葉にするようになった幸村のおかげで、すぐに仲直りする。
そんな変わらぬようで変わった二人の幸せな日々は永遠に続いて行く。
〜幸村偏・完〜