
第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編

「……って、てめー!家康!」
ふと我に返った幸村が家康に噛み付く。
「紛らわしい言い方しやがって!」
「俺は一言も『村正が死んだ』なんて言ってないけど?」
意地悪そうに言う家康に、
「くっそー。」
幸村は本当に悔しそうに歯ぎしりをする。そんな幸村を見て
「ぶっ、ハハハハッーー」
家康は爆笑する。大笑いする家康に
「笑ってんじゃねえ!」
と文句を言う幸村もなぜか笑っていた。
「くくっ、ずいぶん楽しそうだな?」
ふいに聞こえて来たのは光秀の声。
「幸村、目覚めてすぐにしては元気そうだな。」
「……またこんなことになってすみません。」
申し訳なさそうにする幸村に
「全ては舞が目覚めてからだ。」
そう言って、部屋に入るよう促す。家康とともに舞の枕元まで進み、未だ眠り続ける舞に声を掛ける。
「おい!いつまで寝てーーー」
「幸村…」
「ーーっ」
幸村が声を掛けた瞬間に、舞が目を開け、幸村の名を呼んだ。
「光秀さん、ごめんなさい。やっぱり幸村を騙すなんてできないよ…。」
そう言って幸村を見る舞の目には涙が浮かんでいる。
「…舞…良かった…よかった。」
そう答える幸村も涙声だった。
「幸村も…良かった。」
「くっ、作戦失敗だな。」
悪びれもせずに言う光秀。
「っとに、こんな時まで…趣味わりーな。」
幸村がポソリと文句を言うと
「皆に散々、心配を掛けた二人への仕置きにしては生温いと思うが?」
「…すいませんでした。」
「ごめんなさい。」
本当に心配したのであろう、光秀の気持ちが伝わって来た二人は素直に謝った。
「幸村」
「はい」
「舞を…娘を守ってくれて感謝する。」
そう言って頭を下げた光秀に
「いや、俺はなにもしてねえから。どっちかって言うと…」
幸村が答える。
「どっちかと言うと?」
「…俺の方が…。情けねえけど、斬られてから体に力が入らなくなって、そのまま殺られてたかもしれない俺を、怪我をおして木刀で戦って守ってくれたのは舞の方です。怖かっただろうに、俺と村正のために必死に戦ってくれた。…舞がいなかったら、二人とも死んでたかもしれねえ。」
「……」
「それは違う。」
「家康…」
「幸村に使われた毒は、体内に入ればすぐに体に力が入らなくなるものだった。普通の人間なら、その場で崩れ落ちてる。そんな状態で刀を振るって敵にとどめを刺したお前が…舞を守ったんだ。」
