
第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編

家康が舞の部屋へ入ると
「光秀さん…」
光秀が舞の枕元に座っていた。
「幸村は?」
そう尋ねる光秀に
「意識の戻らない原因は毒でした。遅効性で解毒剤を服用しなければ、長く苦しんで死ぬ。高熱も毒のせい。刀傷は浅くはないけど、武将ならぶっ倒れるほどのものでもない。体力もあるし、回復は早いと思います。」
「…そうか。」
「でも、あの毒は体内に入るとすぐに体の自由を奪う。アイツも力が入らなくて動けなかったはず。…なのに、そんな体で敵の心の臓に刀を突き刺したなんて普通じゃあり得ないです。」
家康の話を聞いてしばらく黙り込んだままだった光秀が
「……『二度目はない』と言ったからな。」
ポツリと言う。
「……」
「必死だったんだろう。幸村も…舞も。」
「そうですね。」
「舞も診るのか?」
しばらくの沈黙の後、光秀が口を開く。
「はい。」
そう言って、光秀の反対側へ移動すると、舞の脈や体温を計り、外傷がないか確認する。
「肋骨はくっついてたのが離れてるけど、脈も体温も問題ないです。ただ、このまま眠ったままだと、この間みたいに衰弱していくだけなので、なんとかしないと…」
「また家康が起こせば良かろう?」
光秀が言うと
「…今回は俺じゃダメだと思います。」
俯き寂しそうに言う家康。
「……」
「光秀さんでも起きるかもしれないけど、でもたぶん…幸村じゃないとダメです。」
「そうか…」
「ここを立つ前に幸村に2つ約束させたんです。『記憶を無理に戻そうとするな』、あとは『誰かの死を連想させるものや状況を見せるな』って。不可抗力とは言え、アイツ約束破ったな。」
「くくっ、自らで体現するとはな。」
「ぷっ。目覚めたら、最高に苦い薬湯を飲ませてやります。」
「くっ、それは気の毒なことだ。」
そう言って二人で笑い合った。
「そう言えば、村正はどうなったんですか?」
突然思い出した家康が聞くと
「俺も知らん。」
「でしょうね。」
「確認して来ます。」
そう言って、家康は行ってしまった。
「舞」
一人残った光秀が舞に話しかける。
「お前は俺と親子になってから、寝てばかりだな。このバカ娘、真剣に木刀で挑む阿保など、お前くらいのものだ。だが、大事な者を守るために必死だったのだろう。…良くやった。誰がなんと言おうと俺だけはそう言ってやろう。『舞、良くやった』。」
そう言って、優しく頭を撫でた。
