第3章 時を越えて〜素性〜
大きく何度も深呼吸をして脱力した体をなんとか立て直し、再び信長様と対峙する。
「私は…もう斬られない…殺されないと言うことですか?」
不安に押しつぶされそうになりながら、何とか言葉を紡ぐ。
「はっ。貴様、俺に殺されるかと泣いておったのか。あの時あれだけ俺に生意気な口をきいたくせに、他愛ない。」
何ともおかしそうに答える信長様に
「そっ、それは。だって…。こんな場所に連れて来られて、怖い顔して殺気剥き出しの人たちに囲まれて睨まれたら誰だって…誰だって『殺される』って思うに決まってます!それに!だいたい!あの時は信長様が私のことを『褒美目当てだ』とか言ってバカにしたんじゃないですか!『俺を助けたのは下心があるに違いない』なんてそんな風に思う貴方の方がおかしいのに!!」
バカにされた苛立ちと恐怖から解放された安心感が相まって、私は一気に捲し立てた。
「お前!信長様に向かって何て無礼な!」
直ぐ様、抜刀し鬼の形相で私に向かって来る豊臣秀吉。
「秀吉!やめとけ!お前がそんな顔と行動してるから『怖い顔して殺気剥き出しの人たち』なんて言われるんじゃねえか。俺は舞に優しくしてんのに、一緒くたにされて不愉快だ。」
そう言いながら、驚いて後ろずさる私の前に現れた伊達政宗が豊臣秀吉から庇ってくれる。
豊臣秀吉の後ろからは
「秀吉様、どうか落ち着いてください!」
「秀吉さん、こんな弱そうな女、放っとけば勝手に死ぬだろうし、無駄に体力使って斬る必要なんてないですよ。」
と石田三成と徳川家康がそう言って押し止めている。それでも治まらない様子だったけど、
「秀吉。まだこの小娘から肝心な事を聞き出していない。斬るのはそれまで待て。」
明智光秀のその物騒過ぎる一言で刀をしまい、席に戻った。
「舞、秀吉に斬られたくなければ、御館様に対する言動に気を付けろ。」
私にも抑揚のない口調で告げる明智光秀。納得できないけど、斬られるよりマシだと素直に
「はい。」
と返事した。