第12章 時を越えて〜舞の秘密〜
部屋にはすすり泣く声が響いている。
信長でさえ、涙していた。
しばらくして舞が口を開く。
「これが、『本能寺の変』の真実です。明智家の当主は先祖代々、この事を知って明智家を守って来たのだと思います。私も明智家の人間であることを誇りに思います。」
「ああ。そうだな。世界は違えど、同じ織田信長として明智光秀に礼を言わねばならん。その信長の最期は明智光秀のおかげで幸だったに違いない。」
「はい。そう信じます。」
「お前はその明智光秀の血を引いているから、そんなにも強くしなやかで気高いのだな。」
「そうでしょうか?そうだと嬉しいですけど。」
そう言って、舞が笑った。
「それで、貴様はなぜ元の世に戻ることにしたのだ?」
信長が改めて聞く。
「理由はいくつかあります。まず、1つめは明智の血を絶やしたくなかったから。私が戻らなければ、明智家の直系はいなくなり、その血は絶えてしまいます。文を読むまではそれでも良い、むしろその方が良いと思っていました。でも、文を読んで絶やしたくないと思うようになったんです。」
「ああ。」
「2つめは…この理由はもう無効なんですけど…。みんなに文のことを知られたくなかったからです。この文の内容を知れば、少なくとも信長様が傷付くと思いました。自分が明智光秀を道連れにしたと悲しむと思ったんです。織田信長として皆の前では強く在るべきなのに、心を痛めたことを人に知られるのは嫌だろうとも思いました。
分かっていたのに、結局、皆に話してしまってごめんなさい。
この文を見た以上、光秀さんに対しても今までのように接することはできない。私の様子がおかしくなれば、皆がその理由を聞くでしょう?上手くごまかす自信がなかったから、文のことが知れる前に戻ろうと思いました。」
「………」
(貴様というヤツは。そんな時まで他人を思い遣るのか)
「3つめは、光秀さんの邪魔をしたくないから。光秀さんは、織田軍の闇を背負っています。危険なことがたくさんあるはずです。恨みも買うだろうし。私が子孫だと知れば、光秀さんも知らん顔はできないでしょう?私がこの時代に残ると言えば、明智の家へ迎えようとするかもしれない。でも、家族ができることは、光秀さんにとって必ずしも良いことだとは言えないから。邪魔にしかならないなら、子孫だと知れる前に戻ろうと思いました。」
その時、広間の扉が開いた。