第11章 漂う(沖田夢)
「遼、配達ついでに伝票渡してきてくれ」
「はぁい」
いつも通り、近場の店に配達に出たついでに、ご贔屓さんへの挨拶回りがてらに伝票配りに出た遼は、伝票の束にいつもと違う宛先を見つけて驚いた。
「真選組って、あの真選組だよねぇ……」
武装警察の名の通り、警察とは言え、巷では物騒な集団として認識されている。
遼も例に洩れずその一人で、名前を見ただけで少々気後れしてしまった。
「でも、御得意さんになってもらえたら大口だしな~」
そんな事を考えていたせいなのか、この後遼は真選組である意味運命の出会いを果たす。
【漂う】
チリン、と鈴の音がして、遼は反射的にビクリと体を震わせた。
「あ、そうか……私じゃないんだ」
胸を撫で下ろし、重くなる足取りで真選組の屯所へ向かう。
いつも通り、挨拶がてらに伝票を持って行くだけなのだが、何となく憂鬱だ。
原因はわかっている。
「今日は居ないといいな」
僅かな期待を胸に門をくぐり、会計方へ取り次ぎを頼んでいると、遠くから名前を呼ばれ、庭の方から近藤が揚々と手を振って歩いて来た。
「こんにちは。いつもご贔屓にして頂いて有難う御座います」
「いやいや、こちらこそ。今日は総悟に会って行かないのかい?」
「あ、いや……仕事中なので」
苦笑いしつつ、どのように切り返そうかと考えていると、取り次ぎに行っていた隊士が遼を呼んだ。
遼はこれ幸いと慌てて近藤に頭を下げる。
「では、私はこれで」
殆ど逃げるようになってしまい、遼は心の中で近藤に謝罪した。
その後はいつも通りつつがなく会計方に伝票を渡し、次の注文を受けて帰路につく。
真選組の門を出た所で、遼は違和感に気付いて振り返った。
「?
何も、ないよね……?」
辺りを見回しても異常は無く、遼は首を傾げながらも歩き始める。
その瞬間、腕を引かれて物陰に連れ込まれた。
「きっ、!」
叫ぼうとするが、口を塞がれて後ろから羽交い締めにされてしまい、遼は息を飲む。
「つれねぇじゃねぇか」