第1章 行方不明の片想い(銀八夢)
「4月になったらまた新しい子が入ってきて、新しい一年が始まって……大変な仕事ですけど、教師になって良かったなって思います」
「真面目だねぇ」
「また一年、よろしくお願いします。といっても、まだ学年団も決まってないですけど」
「大丈夫。俺と遼ちゃんは一緒だから」
「そうなんですか?」
「さあ。でも、学年団違っても一緒に居るから」
「同じ国語科ですからね」と答えると、坂田先生がずっこけた。
「大丈夫ですか?!」
「遼ちゃんも大概ボケだよね。
アイツらのせいで忘れてたけど、フルスイングで空振りするタイプだよね」
「何かよくわからないけど、バカにしてます?」
「いやいや褒めてるよ。遼のそういうトコ、すっげー可愛いし、大好き」
揶揄うような笑顔に、一瞬顔が熱くなる。
冗談なら、もっとそれっぽい態度を取って欲しい。
でないと、勘違いしてしまうではないか。
勘違いする前に、いつもみたいにヘラヘラ笑ってほしい。
「狡い」
「何が?」
「坂田先生なんて、万年金欠で、天然パーマで、死んだ魚みたいな目で、足臭いし、下ネタすごいし、スケベだし……」
「え、ちょっと待って、すんごいディスるけど、え?泣いていい?」
いつものように巫山戯た態度を取る坂田先生に、少し笑ってしまう。
「別に、ディスってなんていませんよ。全部本当の事ですから」
「もしかして遼ちゃん、俺のこと嫌い?」
「嫌いなら、隣に居たいなんて思いませんよ」
「へ?」
風が吹いて、私の視界に桜の花弁が舞う。
春が、来た。
きっと、私にも。