第1章 行方不明の片想い(銀八夢)
案の定、涙涙とならなかった卒業式を終えた私は、3Zの教室に来ていた。
卒業生の居なくなった教室を片付けるのは、私たち職員の仕事だ。
「さてと……」
教室を見回すと、あれやこれや思い出が蘇ってくる。
あのロッカー、やたらと誰かが隠れてたな、とか。
妙さんの椅子に頬ずりするゴリラがいたな、とか。
九兵衛さんの椅子に頬ずりする変態がいたな、とか。
「碌な思い出ないな……」
軽く頭痛がする。
けれど、その日々ともおさらばだ。
彼らは無事卒業した。
「さっ、換気換気」
窓を開けると、気の早い桜が花を咲かせていて、花弁がふわりと舞い込んでくる。
風はまだ冷たさを残しているのに、また新しい季節が始まろうとしているのだと思うと、何故かわくわくした。
「あれ、遼ちゃん、こんな所に居たんだ」
「坂田先生」
呼びかけに振り向くと、この部屋の主である坂田先生が入ってきた。
「坂田先生、3Z無事卒業おめでとうございます。それから、お疲れ様でした」
「おー」
「いい卒業式でしたね」
「遼ちゃん、ちゃんと起きて見てた?
俺、あんな卒業式初めてなんだけど。
途中から帰りたくてしょうがなかったんだけど」
「ある意味一生忘れられないじゃないですか」
大変で、無茶苦茶で、常識破りな卒業式だったけれど、彼ららしい式になったと思う。
坂田先生の心中は穏やかではなかっただろうけど。