第6章 絆される・続(神威裏夢)
操縦室のモニターを眺めながら、遼は苛立たしげに指先で机を叩く。
ここ数日、どうにも仕事がうまく運ばない。
原因は、今も隣に座っている。
「ねぇねぇ、俺に仕事してほしくない?」
「ほしくないです。黙って部屋に居て下さい」
「えーっ、つれないなぁ。一回やったんだから、二回でも三回でも一緒だろ」
「死ねばいいのに」
先日の一件を神威が吹聴したせいで、団内で二人の関係を知らぬ者はいない。
しかも何故か団員は歓迎ムードで、遼と神威を二人きりにさせようと気を回していた。
「遼だって、気持ちよかったんだろ?」
「セクハラで訴えて身ぐるみ剥ぎたいんですけど、どこに訴えればいいですかね」
「宇宙海賊にセクハラなんてないよ」
相変わらずの超理論で強引な神威に、遼は苛立ちながらモニターに目を移す。
周囲に敵影は無く、静かなものだ。
暫くは戦闘もせず、穏やかに過ごせるだろう。
「何考えてるの?」
「セクハラバカの倒し方」
「俺が遼の代わりに倒してあげるよ」
「そうですか。じゃあ取り敢えず、鏡でも見てきて下さい」
席を立ち、操縦室を出て行こうとする遼の手を神威が掴む。
「何ですか?」
「遼の初めてって、誰?」
「プライベートな事はお答えしかねます。というか、公共の場所でそんな質問しないで頂けます?」
うっかり聞いてしまった数人が、あたふたと二人から目を逸らした。
遼は神威の手を払い落とすと、名前を呼ぶ声に振り返りもせず自室に戻る。
上着を脱いで椅子に腰掛けると、全身から力が抜けた。
「はあっ……余計な事、思い出しちゃった」
先程神威に尋ねられた「初めての相手」は、遼にとって思い出したくもない人物で、今でも体を許した事を後悔している。
たった一夜の契りだったが、あの頃に戻れるのなら、浅はかな自分を殴ってでも止めたい。
「バカバカしい」
シャワーでも浴びようかと思っていると、阿伏兎から通信が入った。
「副団長、何か?」
『ちょっと確認したい事があるから、俺の部屋まで来てくれるか』
「急ぎですか?」
『いいや。その辺は、お前に任せるよ』
意味深な言い回しに首を傾げつつ、「すぐ行きます」と通信を切る。