第5章 絆される(神威裏夢)
「阿伏兎、なにそれ?」
「荷物」
「ふうん。ま、俺に迷惑掛けないでね」
ひらひらと手を振って乗艦する神威に、阿伏兎はやれやれと溜息をつく。
「つーわけだから、あの人には迷惑掛けないように」
「わかりました。でも、荷物になったつもりはありませんから」
冷たく言い放った少女に、阿伏兎はやれやれと顎をさすった。
少女の名前は神武遼。
地球産の夜兎だ。
正しくは、何世代も前に夜兎の血が混じった地球人らしい。
本人曰く「先祖返り」した状態で、夜兎としての能力を多少は備えているという事だった。
だが、あくまでも「多少」だ。
肌は白いが日光に著しく弱いという事もないし、戦闘能力も地球人にしては、という程度。
そんな遼を阿伏兎が拾ってきたのには理由がある。
抜群に頭が切れるのだ。
会計から宇宙船の操縦まで何でも御座れの遼の能力は、神威を団長に据えたばかりの第七師団にとって、非常に魅力的だった。
特別美人と言うわけではないが、妙に他人を──特に男を惹きつける雰囲気をしていて、阿伏兎もうっかり目を奪われた程だ。
だがしかし、口調も表情もどこか冷たい印象を与える。
「副団長、先ずは操縦室を案内して頂けますか」
「はいはい。つったく、アンタも人使いが荒いのかよ」
ぼやきながら、阿伏兎は遼を案内し、団員達に簡単に紹介する。
女の、それも純粋な夜兎ではないという事で、最初は団員達も受け入れ難く思っていたようだが、十日もすると、その才覚に文句を言う者は居なくなった。
「副団長、団長はどちらですか?」
「さあな」
「では、こちらの資料に決裁をお願いします。私は団長を探して来ますので」
阿伏兎にデータを渡すと、遼は操縦室を出て神威の部屋に向かう。