第29章 支配される心と体(近藤・土方裏夢)
「真選組を裏切れば、近藤の暗殺計画は中止する」
提示された条件を前に、遼は足元が揺れるような感覚に襲われて息を飲んだ。
目の前の人物は、遼が真選組の内通者となることを望んでいる。
彼らにとって目障りな真選組の動向を管理し、余計な手出しをさせないことが目的だ。
「さあ、どうする?」
残酷な問いかけに、遼は少しの躊躇いもなく「はい」と答えた。
【支配される心と体】
数日後。
真選組屯所内で仕事をしていた遼は、近藤に呼び出されて局長室を訪れていた。
筈、だった。
局長室に足を踏み入れた瞬間、後ろから羽交い絞めにされて意識を失い、目が覚めると全裸でベッドに寝かされていた。
それも、手と足を縛られた状態と言うおまけ付きで。
「な、何……?」
「漸くお目覚めか。ったく、一々手間取らせやがって」
掛けられた声に慌ててそちらを向くと、少し苛立った表情で煙草をくわえている土方と目が合った。
「副、長……?」
「意識もはっきりしてるし、これなら問題なさそうだな。近藤さん、とっとと始めんぞ」
「始めるって一体……」
混乱する遼に近付いた近藤は、いつもの人好きのする笑みを浮かべて耳を疑うような一言を発する。
「今から俺とトシで、キミを教育するんだよ」
「教育?」
「うん。絶対に俺たちを――真選組を裏切ろうなんて考えられないように、しっかり教えてあげるからね」
遼の目が零れんばかりに開かれ、ひゅっと息を飲む音が漏れた。その様子を近藤はニコニコと、土方はいつもと変わらぬクールな表情で見下ろしている。
「う、裏切るって、」
「俺たちが何も掴んでねぇと思ったか?
テメェが奴らと繋がってるのは知ってて泳がせてたんだよ。まさか、こんなに早く裏切るとは予想外だったがな」
「あ、あっ…そ、それは」
「遼ちゃん、言い訳はいいよ。キミが裏切ろうとしたのは事実だ。だから俺たちは、キミを元のいい子に戻してあげるからね」
聞く耳を持たない二人に、遼は全身を硬直させた。
裸にされているという羞恥よりも、近藤と土方が普段と変わらぬ様子であることが何とも恐ろしく、不安を駆り立てていく。
恐怖でブルりと震えた遼に、近藤は優しく声を掛けた。