第21章 一番甘いお菓子の名前【銀時夢】
⦅一番甘いお菓子の名前⦆
万事屋の台所で、遼はレシピ片手にお菓子作りに勤しんでいた。
「おっ、何作ってんだ?」
「内緒。まだ時間かかるから、出かけてきたら?」
「そうだな……でもまぁ、今日は新台の日でもねぇし」
「パチンコじゃなくて、仕事でも探してきなよ」
呆れた、と溜息をついた遼に、銀時は大きな欠伸をして背伸びをする。
「こんないい天気の日に、彼女がウチに来て菓子作ってくれてんだぞ。のんきに仕事なんて出来ねぇだろ」
「……銀ちゃんのために作ってるなんて言ってないんだけど」
「え、うそ、俺のためじゃないの?」
「どうだろうね」
慌てふためく銀時に、遼は「働き者にはご褒美があるかもよ」と言ってくすりと笑った。
「俺、今日遼が来るってわかってたから、昨日めちゃくちゃ頑張って仕事終わらせたんだけど」
「へぇ。じゃあ、あるかもね」
くすくすと笑いながら、遼は忙しなく手を動かす。万事屋の台所は必要最小限の物しかないので、お菓子作り一つでも結構な重労働になるし、時間もそれなりに掛かってしまう。
「本当に、まだまだ時間がかかるから、出かけてていいんだよ」
「んー……なぁ、俺がここに居たら邪魔か?」
「うん。——って、冗談だよ。そんなに落ち込まなくってもいいじゃない。別に、邪魔じゃないけど、きっと暇だよ」
「いや、いい。もうちょっとここにいる」
わざわざ椅子を用意して、すっかり居座る気の銀時に、遼は「仕方ないなぁ」と、困った顔で笑った。
「飽きるまで、居たらいいよ」
「飽きねぇよ。お前見てると、楽しいから」
「おあいにく様。今日は準備万端だから、ドジ踏んだりしないよ」
「あっそ。じゃあ、楽しみに待てるな」
腰かけた銀時は、レシピとにらめっこしながら調理を続ける遼の背中を見つめながら微笑む。
何て充実した時間なんだろうと、胸の奥が温かくなった。