第19章 星の降る夜【高杉夢】
濃い藍の空に、一つ、また一つと星が瞬く。
その光景に、高杉はふと遼と過ごした日々を思い出した。
「あの日もアイツは、星を見てたな」
宇宙海賊春雨。
縁あって彼らと手を組むことになった高杉は、宇宙を航行する艦に乗っていた。傍らには、潜入と称して乗り込んできた遼がいる。
「地球に着いたら降りろよ」
「わかってるよ。だからもうちょっとだけ、傍に居させてね」
そう言って微笑んだ遼の頭を撫でた高杉は、ゆったりと紫煙を燻らせた。
遼と高杉は、今や敵対関係にある。
攘夷志士と真選組。
追う者と追われる者。
なぜこの運命にたどり着いたのかはわからない。けれど、二人の間の絆が無くなったのではないと、お互いに理解していた。
「宇宙船なんて初めて乗ったけど、やっぱり何か変な感じだね」
「お前は喜ぶと思ってたけどな」
「何で?」
「昔から、空ばかり見てただろ」
高杉の言葉に、遼は数度瞬きを繰り返す。
「よく、覚えてるね。そんな昔の事」
「大きな口開けて、間抜けな顔してたからな」
「ひどい。そういう理由なの?」
明らかに不貞腐れた遼に、高杉は僅かに口元を歪めた。
すっかり成長した遼の中に、純真なころの姿が垣間見えたことが無性に嬉しく、同時に哀しくもあった。
変わってしまったのは、自分だけなのかもしれない。
「ねぇねぇ晋ちゃん、ちょっとだけ外を見に行ってもいい?」
「お前、自分が招かれざる客だってわかってるのか?」
「ちょっとだけでいいから。ね」
袖を引かれ、高杉は「少しだけだぞ」と諦める。昔から、あの顔に強請られるのに滅法弱いのだ。
窓一面に外が見えるエリアに来ると、遼の表情がぱあっと輝く。
「わー、すごい。宇宙って感じ」
素直な反応に、高杉は思はず小さく噴き出した。
これではまるで、あの頃のままだ。
星空に喜ぶ遼に、幼いころの姿が重なり、ふと思い出したことを聞いてしまう。
「そう言えば、昔は熱心に流れ星に願い事してたな」
「本当、よく覚えてるね」
「一体何を願ってたんだ?」
「た、大したことじゃないよ。その、ほら、あの頃は私も子供だったし」
突然慌てふためく遼に、高杉は意地悪く問い詰めた。