第14章 募る想い(土方裏夢)
いつものように目を覚ました遼は、隣で眠る土方を起こさぬようにそっと布団から出ると、軽く身支度を整えて台所へ向かう。
「今日のお味噌汁は──お豆腐とネギにしよう」
夫婦となって三月。
二人分の調理にも慣れ、料理は日々の楽しみになりつつあった。
「後は、卵焼きを──って、十四郎さんまだ寝てるのかな?」
いつもならば、準備万端で食卓につく頃合いだが、起きてくる気配すらない。
まだ余裕は有るのだが、寝坊していてはいけないと、遼は一旦火を切って寝室へ向かう。
「十四郎さーん、そろそろお時間ですよーって、いない?」
布団の上はもぬけの殻で、遼は首を傾げつつ洗面所を覗いてみるが、そこにも姿はなかった。
「入れ違いで居間に行っちゃったのかしら?」
不思議がりながら居間の襖を開けると、部屋の隅で膝を抱えて座っている土方の姿を見つけて、遼はほっとするが、その違和感に眉を顰める。
「十四郎さん、今日はお仕事ですよ。着替えなくても大丈夫ですか?」
尋ねても、こちらを向くどころか反応すらなく、不安になった遼は土方の傍に膝をつき、顔を覗き込んだ。
「十四郎さん?」
「うわぁぁっ!」
飛び退いた土方に、遼も驚き言葉を失う。
あまりの事に瞬きを繰り返していると、土方に何故か怯えたような表情を向けられて、困惑した。
「あ、あの……」
「すっ、すまない、それ以上近寄らないでくれ!」
はっきりとした拒絶にも驚いたが、それ以上に土方の言葉遣いに驚いてしまい、遼は「十四郎さんですよね?」と、思わず確認してしまう。
「そっ、そうだよ。だけど僕は、十四郎じゃなくて、あの……とっ、トッシーなんだ」
「トッシー?」
遼がハテナと首を傾げると、土方もといトッシーは、言葉を詰まらせながらも話し始めた。
「ぼっ、僕は、十四郎の中にいるもう一人の十四郎で、ずっと隠れていたんだけど、目が覚めたらこんな事になっていて、僕もどうしていいのかわからないんだよォ」
「十四郎さん、じゃなくてトッシーさん、とりあえず落ち着いて下さい。えっと、もう少し近付いてもいいですか?」
トッシーが頷いたのを確認して、遼は腕を伸ばせば届く距離まで行って膝をつく。