第12章 期別(高杉夢)
顔を見合わせて、再び笑い合う。
ありふれた、何でもない日常が戻ってきたのだと、誰もが実感していた。
「いつまでもここに居ても仕方ねぇし、そろそろ行くか」
「そうだな」
「名残惜しい気ぃもするが、また会えるしの。ところで遼、知っちゅうがか?」
「何のこと?」
「鬼兵隊の残党が妙な動きをしちゅう。おまんは何ぞ知っちゅうかと思ってな」
坂本の問いに、遼は少し困ったように笑う。
「それが希望なら、きっとそれで良いんだよ」
「成る程な。では、遼の希望とは何だ?」
桂の問いに遼は少し驚いた顔をした。
改めて聞かれると、何と答えるべきか悩んでしまう。
「うーん、何だろう……地獄で同窓会とか?」
「なんだそりゃ」
「いやだって、晋ちゃんが言ってたんだよ。「先生が地獄で待ってる」って」
「高杉らしいというか……」
「どうせみんな地獄に落ちるだろうから、そこで同窓会もオツでしょう?」
「高杉も高杉だけど、お前もお前だな」
銀時は些か乱暴に遼の頭を撫でる。
遼の想いは、銀時にとって救いのような気がしたのだ。
松下村塾の再建も、地獄での同窓会も。
「その時には、遼も酒が飲めるようになってるといいがな」
「飲めないわけじゃないよ。副長に、弱い上に酒癖が悪いから飲むなって言われただけで」
「アイツが飲むなって言うなんて、どんだけ酒癖悪ぃんだよ」
「そりゃぁ仕方ないき。じゃあ、おまんと高杉はヤクルコで我慢せんとなぁ」
「何で高杉までヤクルコなんだよ。つーか、地獄にヤクルコ持って行く気かオメーは」
「持って行ったら喜ぶかもね」
ふふっと笑った遼はもう一度墓標を振り返り、真っ直ぐ空に伸びていく線香の煙を眩しそうに見つめると、銀時の腕を取って「行こう」と促した。
二人に誘われるように、桂と坂本も歩き始める。
この先歩む道が違っていても、帰る場所は皆同じだと信じて。
だからその日まで、もう涙は流さない。
──おわり──