第7章 護身術
―数時間後・池袋某道場前―
「じゃあ、まあ、今日は挨拶だけだから。気に入らなきゃ言ってくれればいいよ」
「は、はい」
彼女の心は強い不安に囚われていた。
今までと同じように、みんな『粟楠会』という影に怯えてしまうのでは――と。
体が震えて、やっぱり止める、と言おうか迷っていた時――
「あーっ。粟楠会の極道者が女の子を誘拐してるのみーっけ!」
「!?」
「参ったねぇ。マイルの嬢ちゃん。俺がそんな悪人に見えるってのかい」
「だって、赤林のおっちゃん、これでもかってくらいアヤシー外見してるじゃん!」
「参ったねぇ」
ヘラヘラと笑う赤林の前で、ケラケラと笑う少女。
と同学年と思しき少女は胴衣らしいものを背負っており、どうやらこのジムに通ってるらしい。
「実はね、この子、ちゃんっていうんだけどさ。うちの会長の孫なんだよ」
「えっ!じゃあ、将来この子、姐さんって奴になるの!?」
「……!……!」
ジムでは隠し通すべきだと思っていた事項が、赤林の口からあっさりと打ち明けられてしまい、アワアワと口を震わせる。
「ま、いいや。とにかく、君は私の後輩だねっ!私の言う事をなんでも聞くなら、特別に子分にしてあげるし、私直伝の超奥義、画鋲スペシャルを教えてあげるよ!」
「名前も習得条件も安い奥義だこと」
「赤林さんは黙ってて!」
一方的にしゃべるマイルに対して、は何も言えずにいた。
“粟楠会の会長の孫”と知った上でこのような物言いをする人間が、の目にはとても新鮮に映る。
「まあ、どっちみち貴女は私の妹弟子なんだから、困った事があったら私に何でも聞いてね!じゃ、さっそく師匠を紹介するから、おいでよ!」
「ああ、じゃあ、館長に話は通してあるから、後は頼まぁな。帰りはちゃんのお父さんに電話すりゃ、迎えを寄越してくれるそうだから」
「あ、あの、えっ?」
急な流れに頭がついていけず、引きずられる形でビルの中へと入って行った。