第1章 何処にいても【潑春】
私は戸惑って渡された生徒手帳を見ると、正真正銘草摩潑春の生徒手帳。
「いやいやいやいや、いるじゃん!これ、使うやつ!」
「うん、いるやつ」
「私に渡したらダメでしょ」
「大丈夫。必要になったらすぐ返してもらうから」
「は?何言って…」
急に春の匂いが強くなったと思ったら抱き締められていた。
思考停止。
ちょっと待って、夢かなこれは。
「卒業しても近くにいてもらうから。だからひまりが持ってて」
え、え、え、
それって…それってもしかして…
「色々…問題あって、ずっとこうしたかったけど、出来なかった。でも、やっと…抱き締められる。そばに居てって、言える」
頭の中も心臓も全てがパニック。
夢かと思って恐る恐る背中に手を回すと、ちゃんと感触があって。
夢…じゃない。
「わ、私…」
上手く言葉が出てこなかった。
緊張と恥ずかしさと嬉しさで。
「断らせない。何処に行っても絶対見つける。逃がさない」
春の自分勝手過ぎる発言に思わず吹き出してしまう。
「ふふっ。なにそれ脅し?」
「うん。脅してる」
あまりにも平然と言ってのける春がおかしくて、額と額をくっつけて2人で笑い合った。
「好き。ひまり。そばにいて」
「私も春が好きだよ。何処にいても見つけてくれるんでしょ?」
「…当たり前」
そのまま目を瞑って自然と唇を重ね合わせた。
唇を離すと、マジマジと顔を見てくるもんだから恥ずかしくて顔を背けようとするのを頬に添えられた手で阻止される。
「やっぱり…可愛かった」
全身の熱が顔に集まって、口から心臓が飛び出そうになる。
あぁ、心臓がいくつあっても足りない。これじゃあ。
はぁぁーと長いため息を吐く私にまた触れるだけのキスをした後、春は意地悪く口角をあげていた。
「逃げたら前の時より暴れる」
再度私を脅すと、絶対離してやらない。とキツく抱きしめられた。
やっぱり、この人といると心臓がいくつあっても足りない気がした。
——— fin ———