第19章 ロックオン
3つの人影以外は誰もいない談話室。そこではカチリ、カチン、カチリという音が不定期に鳴っている。
2人は軽く口を上げて、1人は緊張からか常に強張った顔をしている。今、その頬に冷や汗が流れた。
敏感な先民なら察知できるだろうその柔らかい笑みから発せられる無言の威圧は、向けられているわけでもないのに部屋にあるものを委縮させている。
それは暖炉の火や部屋のランプスタンド、観葉植物に至るまで全てが範囲内。外の風さえ吹き荒び、バルコニーへ繋がる窓ガラスをガタガタと揺らす程に。
カチン、とまた音が鳴る。
それは、無言で行われているチェスの駒が置かれる音だった。
ガラスでできた盤の上に、強めに置かれるのは怒りがあるのか否か。あるいは、自分の存在が煩わしいのか―――
常に隣にいて守って来た。攫われた時も最前線を張っていた2人のエリートオペレーターに、彼はロックオンされたようだ。
「貴方がさくらと何をしていたのかはさして重要ではないですよ」
切り出したのはアドナキエル。楽しそうな声色だがどこか棘がある言い方だ。
カチリ。今度は白の駒が置かれた。それはチェスでは先攻で優位に立てる証の色。
だが、盤の上でも空気でも押されているのは間違いない。
「問題は俺たちを見た瞬間に、何故彼女があんな顔を向けたのかが重要です」
「…」
「教えてくれませんか?」
カチン、と置かれた駒と同時に金色の目が相手を見据えた。
恐怖さえ覚える色に、天使のそれを感じさせない。
「俺たちに不利になるようなこと、言いました?」
「こら、アドナキエル。…怖がっているだろう?」
「スチュワードも気になるくせに良く言うよ」
「まぁ気になるのは違いないけど」
薄暗い談話室の背景と相まって2人の笑顔はとても不気味だった。
視線を外さずにはいられなくなったレイリィは、目を伏せて空笑いを零す。