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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第2章 冒険者の街コルト


扉から入って来たのはグレンさんだった。
どうやら、入り口辺りに群がっていた女性達はグレンさんの姿を怖がってどこかへいってしまったらしい。

「グレンさん!お帰りなさい!」

私は急いでカウンターから出て、グレンさんの傍で挨拶をした。そんな行動に自分でもげんきんだなと思ってしまう。でも、頬が緩むのを止められない。

「今日のお夕飯のお肉料理は、グレンさんの好きなビーフシチューですよ。良ければ是非食べて下さいね」

グレンさんは伸びきった黒い髪の隙間から見えた赤い瞳を僅かに細め、こっくりとうなづいた。
良かった、喜んでもらえたみたい。


グレンさんは不思議な人。
大きな体をしていて、黒い髪も髭も伸び放題。大きな剣を携えて何時もお宿にやってくる。出かける日もあれば一人ゆっくりお宿で過ごす日もある。そして、最終日になれば何処か名残惜しそうにしながら去って行くのだ。
どうして何も言わないのに名残惜しそうに見えるのか…だって、去っていく時の背中が何時もより丸くなっているのだもの。


ふと、グレンさんが私をじっと見ているのに気付いた。私が、にこりと笑って見せると、慌てた様に持っていた皮袋を漁り始めた。

「ん……」

皮袋から取り出した何かを突き付けられた。
それは頭が無くてまだ血塗れで、きっとリリアンが見たら顔を真っ青にして叫んでいたに違いない。
私も驚きはしたけれど…こ、これは…

「わぁ!これ、ハナドリじゃ無いですか!」

ハナドリとは、羽がお花のように綺麗なピンク色をしている鳥のことで、お肉は柔らかく花のような香りがすると人気なのだ。けれど今は乱獲されてしまい、数が少なくなってしまった。
近年では観賞用としても人気が高く、普通では手に入りにくい高級食材だった。

そんなハナドリを、グレンさんが受け取れとばかりに私の前で揺らした。

「こ、これ、下さるんですか?」

取り敢えず受け取りながら問いかけると、グレンさんがこっくりとうなづいた。

「私、ハナドリ凄く好きなんです。でも最近は全然食べれなくて…凄く嬉しいです!グレンさんのお夕飯にも香草焼きでつけるようにしますね?」

嬉しい!!
グレンさんは時折私の好きな物をくれるのだ。

またグレンさんの目が嬉しそうに細くなった。
それから慌ててもう一度うなづくと、グレンさんは逃げるように二階の自室へと戻って行ったのだった。
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