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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第2章 冒険者の街コルト


宿の入り口辺りが騒がしい。
複数の若い女性の黄色い声が聞こえる。
きっと、沢山の女の人に囲まれているのだろう。そんな彼が逃げるようにして宿に入って来た。

「オリオンさん、お帰りなさい」

「ちゃん、ただいま。いやぁ、まいったよ…」

そう言いながら彼は困ったように、けれど何処か嬉しそうに未だに扉近くの窓から彼の様子を覗いて来る女の人達を見て手を振った。その途端、外の女の人達からまた黄色い声が上がった。
そしてその黄色い声は宿の中でも…

「キャー!オリオンさぁーん、お帰りなさぁい!あ、疲れたでしょ?お部屋までお送りしますぅ!」

厨房の奥から慌てて出てきた同僚のリリアンが、オリオンさんの荷物を半ばひったくるようにして持ち、距離を詰めてオリオンさんに自分の腕を絡めた。
オリオンさんは、そんなリリアンの様子にまたもや困って見せながらも「じゃあ、お願いしようかな」と受け入れた。



オリオンさんは、このコルトの街で一番と言われる程の実力の持ち主らしい。もうこのコルトの街の近くにある初期ダンジョンでは彼のレベルに見合わず、既に実力は冒険者の中でもA級。
嘘か本当か、王国の騎士団も勧誘しようと彼に目を付けている、なんて噂も有るくらいだ。

しかも、優しげな瞳に整った容姿は女性うけも抜群で、将来有望な格好いいオリオンさんと仲良くなりたいと言う女の人はとても多かった。


同僚のリリアンもそうだ。
リリアンは街で評判の美人だ。だから黒猫亭の看板娘でも有るのだけれど、そんなリリアンがオリオンさんにメロメロになっている。
何時もオリオンさんの事を話して、うっとりと宙を見詰めるリリアンは女の私から見ていても可愛いと思ってしまう。

けれど…
私はあまりオリオンさんが好きではない。
お客さんに対して好きではない、と言うのはとても失礼で申し訳ないのだけれど、やっぱり少し苦手だ。

なんと言うか、雰囲気とでも言うのだろうか…
二人きりで居ると、ゾワゾワとして落ち着かない気持ちになってしまう。社交的で、話す時に距離が近い事やスキンシップが激しいと言うのも理由かもしれない。

私は階段を登っていくリリアンとオリオンさんの後ろ姿を見詰めた。


そんな私の考えを打ち消すように、扉が開き来訪者を告げる鐘の音がカラカラと鳴ったのが聞こえた。
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