第5章 好きな人
あの時、何が起こったのか。
今でも信じられない…
「副長、き、騎士団皆で探せば何とか…」
マルクさんの言葉に副団長さんが言いにくそうに目を逸らして、絞り出す様な声で返す。
「もう、やってますよ…騎士団だけでなく、自衛団にもギルドにも要請を出し…動ける者皆で、ここら一帯をくまなく探させています」
きっと副団長さんもその植物とやらを探しに行きたいに違い無い。込み上げる感情を抑え込むように副団長さんが拳を握った。
「じ、じゃあ、俺も行くっす!白い花っすよね!?小さくて白くて、釣鐘の形をしてて…揺れると綺麗な音がする珍しい花なんすよね!?俺、絶対に見付けてみせます!だから…だから…死なないで下さいよぉ…」
マルクさんが床へと崩れ落ち、膝をついた。私は力無く目を閉じているグレンさんの頭を自分の膝へと抱え、ギュッと抱き締めた。
花さえあれば…
白くて小さくて…
釣鐘の形をしてて…
ふと、そこまで考えてぼやけた思考が段々と戻って来る。
「白、くて…小さくて…釣鐘の形をしてて…柑橘系の爽やかな香りがして…夜になると、うっすらと光って、風に揺れるとリンって音が鳴る…そんな花、ですか?」
涙がピタリと止まり、ドクンドクンと期待に心臓が高鳴る。僅かな時間がとても長く感じる。その間じっと副団長さんの返事を待った。
「え、ええ、その通りです。さん、何でそれを知って…」
嘘、まさか…
「っで、まず…」
止まった涙がまた滝のようにあふれ出した。
「わだじ、その花、もっで、まずぅぅ!!!」
──宝石では無いのだが…
根っこごと布袋から取り出して、私へと花を差し出したグレンさんの姿を思い出して今度は涙だけじゃなくて、鼻水も我慢することが出来なかった。
宝石じゃないけれど、お城が買えてしまう位貴重な花をグレンさんは私に送っていたのだ。
私の言葉を聞いた副団長さんの行動は早かった。
「何処ですか!今すぐ案内して下さい!」
「あ、あいっ!」
言われて急いで立ち上がった。そして副団長さんと一緒に私の部屋がある二階へと走り出す。
背後で、私の膝から転げ落ちたグレンさんが床でゴンと頭をぶつけたり、それを見たマルクさんが叫んだりと色々あったみたいだけれど…
今の私はグレンさんが助かる。
生きてくれる。
その事で頭がいっぱいだった。