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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第4章 竜


飼い主に殺されそうになっていた少女を連れ出した。

何故そんな事をしたのか、未だにわからない。俺が人助けなんて信じられねーが…自分の気持ちの変化に、ただの助けて貰った礼だと自分へ言い聞かせるように結論づけた。



連れ出した少女を何処に連れて行くか迷った俺は、良く利用していた宿、コルトの町にある黒猫亭へと少女を連れて行った。

人の良い夫婦が経営する宿屋は、旦那が作る料理の味と奥さんの人柄のお陰でとても人気がある。そんな黒猫亭で人手が欲しいと言っていたのを思い出したのだ。
俺は二人に事情を話し、少女を住み込みで働かせて貰える様に頼んだ。すると、二人は喜んで少女を引き取ってくれた。

これで少女は大丈夫だろうと思った。


「あの、何処へ行くんですか?」

少女を置いて去ろうとすると、彼女が俺のボロボロのマントを掴んで、不安そうな瞳で見上げてきた。

「俺とはここでお別れだ。…お前はもう大丈夫だ。二人とも良い人だから、安心していい」

お別れ、と耳にした少女の顔が一瞬泣きそうに歪んだ。けれど彼女は泣くことはせず、笑みを浮かべた。

「あの、また…会いに来てくれますか?」

笑みを浮かべる少女の瞳から、不安と寂しさが伝わって来る。

…ガキの癖に無理しやがって

「……気が、向いたらな」

これで終わりのはずだった。なのに、気付けばそんな期待を持たせる様な事を俺は口にしていた。
俺の返事に嬉しそうに笑った少女の笑顔が眩しかった。自分の気持ちが自分でわからなくなってきていた。



それからと言うもの、俺はコルトの町の近くに来ると必ず黒猫亭を覗くようになった。
女将から、毎日の様に俺が来ないかどうか窓の外を見詰めている少女の事を聞くと、何となく姿を見せる事は出来ず…こっそり様子を窺って、女将に近況を聞く位しか出来なかった。

その内に、あいつの名前がと言うのだと知った。

ある日、が風邪をひいて寝込んでいると聞いた。俺は町で手に入る一番良い薬を用意した。

誕生祭のプレゼント、が頑なに要らないと言って欲しがらないらしい。きっとは遠慮しているのだろう、と女将から聞いたから、俺は女達に聞いてが喜びそうなものを見繕い女将へと渡した。

そうしている内に、いつの間にか俺の中はでいっぱいになった。
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