第4章 竜
ポトポトと私の涙がグレンさんの顔へと落ちた。すると、うっすらとグレンさんの目が開いた。
「っ!グレンさん!!」
虚ろな目で宙を眺めた後、私の姿を見付けたグレンさんは私を安心させる様に僅かに微笑んだ。
「、な…で…泣いて、る?」
グレンさんがゆっくりと力の入らない手を上げて、私の頬を流れる涙を指ですくった。
「だって、グレンさんが…グレンさんが…」
グレンさんの私を気遣うような優しく低く響く声に、更に涙が零れてしまう。
「ごめっ、ごめんなさい…わ、わたっ、私のせいで…私を庇ったから…っグレンさ、が…」
泣いて訴える私の姿を見て、グレンさんは小さく頭を左右に振った。
「君が無事なら、俺は…それでいい」
「っ…」
私は我慢しきれず、グレンさんへと抱き着いた。
「ゃ…です…嫌、ですっ!私の大好きな、グレンさんが、それで、死んじゃう、なんて、い、嫌です!」
私はグレンさんの顔を覗き込んで必死に話しかけた。
「っ、ふぐっ、ぅっ…き、です…ッ好き、なんです!だから…」
死なないで下さい、との言葉は泣き声で言葉にならなかった。ボロボロと泣く私を眩しそうに見詰めたグレンさんが、私を慰めようと優しく頭を撫でた。
「…、俺は……」
何かを言いかけたグレンさんが口を閉じた。先の言葉を飲み込み、悔しそうに苦しそうに顔を歪めて眉間へ皺を寄せている。
「……何度も、撤退するように言ったのです…動かずに居れば毒の回りが遅くなる。ですが彼は、毒を受けたまま先陣をきり戦いました。ここで自分達が引くと竜はコルトの街へ行ってしまう…貴女が危険になると…」
ポツリと副団長さんが話し出した。
「何度言っても休まず、毒に侵されながら最後は竜の首を切り落としたんですよ」
その分、毒のまわりが随分と早まってしまいました。と付け足した副団長さんに込み上げる嗚咽を必死で飲み込んだ。
「何で、んで、私なんか…」
「君が、大切だからだ…誰よりも…何よりも…大事な…」
────
そして目を閉じ…
私の頭を撫でていたグレンさんの手がズルリと滑り…
──力無く落ちた。
「いっ、いやぁ!いやぁぁぁ!!」
私は力を無くしたグレンさんの手を拾い上げて、頬へと押し当てた。
「グレンさん!グレンさんグレンさん!死なないでぇぇ!」