第4章 竜
マルクさんは私を宿まで送ってくれた後、皆の所へ戻って行った。
宿に戻った私の姿を見た女将さんが悲鳴を上げた。直ぐにお風呂へと入れられ、服も着替えさせられた。何があったのかを話すと、意外な事にリリアンがオリオンさんにとても怒っていた。
「女の子にそんな事をする人なんて最低!」と怒ったリリアンが私を抱き締めて、ごめんね、と謝ってくれた。
日が暮れて、夜が深まっても私は宿の入り口辺りから動く事が出来なかった。今日は宿に泊まっている冒険者も皆竜退治へと駆り出されている。
何時もは賑やかな宿が、今はとても静かだ。
私はグレンさんや騎士、竜と戦っているだろう冒険者の皆の事が心配で仕方が無かった。
「…もう休んだ方が良いよ」
リリアンに優しく諭されても、私は頭を左右に振った。
「…そうだよね、の好きなグレンさんも戦ってるんだもんね」
不安な気持ちを抑え込むように唇を噛んでうなづいた。
「でもさ、今回の竜は以前現れた竜と比べて凄く小さいんだって。魔法使いも居るから毒も瘴気も大丈夫だって…それに何よりも英雄のオーキッド様もいらっしゃってるって…」
「毒?」
毒と聞いて竜の吐き出した液体の事を思い出した。
「え?うん、毒。竜が吐き出す液体には瘴気と毒がまざってるんだって。でもね、直接触れない限りは大丈夫よ。魔法で毒に備えれば…」
その言葉にドクンと心臓が鳴った。
「リリアン…毒を受けると、どう、なるの?」
竜が私へと向けて吐き出した毒、それを私を抱き締めて庇ったグレンさん。マルクさんに連れられてその場を去る直前、グレンさんの背中が酷く焼けただれているのを目にした。
あれは、竜の毒を受けた痕だ…
「えっと、私も聞いただけで良くは知らないんだけど、竜の毒は凄く特殊で、特別な解毒薬でしか治せないとか何とか…?」
聞いている内にもっと心臓の鼓動が激しくなる。
グレンさん!
私は手を組んで神様に祈った。神様、どうかグレンさんを助けてください。グレンさんが無事に戻って来ますように…
どれくらい経っただろうか。
急に周囲が慌ただしくなった。
どけどけ!
そこを開けろ!!
そんな声が聞こえて、宿の扉が開いた。そして入って来たのは昼間にここへやって来た綺麗な騎士様、副団長のレイ・マクスウェルさんだった。