第3章 騎士と犯罪者
どうしよう、どうしよう…
「大したことでは有りません。私達はこの男を探しているだけなのです。どうかご協力下さい」
薄く弧を描いた口元からは騎士の感情を読み取る事が出来ない。
グレンさんに教えてあげなくちゃ。早くこの街から逃げるように言わなくちゃ…じゃないとグレンさんが騎士に捕まってしまう!
「あ!私、この人知ってます!」
リリアンが女将さんが手にした紙を覗き込んだ。私は緊張に体を強ばらせた。
リリアン、お願い、言わないで…
けれど、私の願いも虚しく。一瞬、リリアンと視線が交わった。そして申し訳なさそうに視線を下げた後、騎士へとリリアンは口を開いた。
「この人、うちの宿に泊まってます」
「リリアン!!」
宿泊客の事を勝手に話してしまったリリアンに女将さんが咎めるような声を上げた。
「だって、騎士様が探していらっしゃるのよ?協力しないといけないわ」
リリアンは騎士とお話し出来る事を喜んでいるみたい。けれど私はもう皆の話なんて耳に入らなくなっていた。
早くグレンさんを探さなくちゃ!
私はこっそりと厨房へ移動すると、そのまま裏口から外へ出た。
グレンさんが何処へ行ったのかはわからない。けれど、それでも探し出して伝えなくちゃ。
私は必死だった。
ギルドへ行ってもグレンさんはいなかった。市場にも、職人街にも…グレンさん、何処にいるの?
息が切れて汗が額から頬へと伝う。それでも立ち止まっているのが惜しいと直ぐにまた走り出した。
グレンさん、グレンさん!
わかっていた、独りで外へ出る事の危険さや心配してくれたお女将さんやグレンさんの気持ち。でも、それでもグレンさんを放っておく事は出来なくて。
だから、罰が当たったんだと思う。
──やっと、捕まえた
「!?」
口と鼻を何か薬品のついた布で覆われた。ツンとした刺激臭と共に意識が遠くなる。
「ふふっ、俺を探しに来てくれたんだろう?」
そして力無く地面へと崩れ落ちる瞬間、フワリと体を持ち上げられた。
「今度はアイツの邪魔の入らない所に行こう、そして二人でゆっくり話をしよう」
ね、とやけに優しく私へと話しかけるオリオンさんの顔が見えた。その目元にはくまが出来ていて、何処と無く切羽詰まったような印象を受けた。
そうして、意識を失った私を抱えてオリオンさんは歩き出した。